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 会長はしばらく黙ってわたしの発言の重大さを吟味していた。その証拠にしきりにマックスコーヒーに手を伸ばし、すぐに空になった。

「宇田見さんの論理展開に矛盾はなさそうに思える。というより、それならいろいろなことに理由がつく」

「そうですね。昨日みたいな寒い日の異様な発汗も、筋肉痛も、薬物を乱用することで現れる症状です」

「でも、おいそれと信じることができない。平凡な高校生が薬物なんて」

 それはわたしだってそうだ。自分の想像力が逞しすぎて本当かと未だに自分自身を疑っているのだから。一度紙に書くなりして思考をすっきりさせたい。その一方でそんなことをしても結論は変わらないだろうな、と冷静に考えている自分もいる。

「信じがたいですが、状況が暗示しています」

「なにか穴があると思うんだけど、すぐには指摘できない。でも、一日じっくり考える時間は残っていないか」

「証拠を押さえるのが手っ取り早いでしょう。会長にとっても、わたしにとっても」

 会長は信じられない物体を、例えばUFOだとか、を見つけたみたいに目を見開き、「証拠って、まさか薬のこと?」

「そのまさかです」

「そんなのどうやって。剣さんを逆に襲って押収しようって言うんじゃないでしょうね」

「それは、まさか、です。剣さんと同じ穴の狢になってしまいます。論理的に追い込んでいきましょう」

「考えられるのは、自宅で保管しているか、肌身離さず持っているか、のどちらかくらい?」

「妥当な線ですね。自宅は考えにくいかと思います。剣さんの家族構成や家庭環境はなにも知りませんが、自宅が最も安全なら自宅で吸うはずです」

 会長が反論したいようで口を開きかけたが、それを手で制した。「言いたいことは後でまとめてお願いします。その内容に予想はつくので」

「分かった、続けて」

「お言葉に甘えて。次に肌身離さず持っている場合。これはリスキーですね。薬物は持っているだけで犯罪です。ぽろっと落としたりする可能性だってないわけではない。鞄に隠すのはどうでしょうか。剣さんのファンが手紙をよく鞄に忍ばせているみたいです。その人たちが見つけてしまう可能性がないでもない。残る可能性は、灯台下暗しです」

「変わらず部室に隠している、か」

「剣さんがどう考えた知りませんが、わたしはそれが一番可能性が高いと思っています。では、反論をどうぞ」

 会長はじゃあ遠慮なくと前置きしてから、「どれもこれも根拠があるように思えるけど、どれも弱い。決め手に欠けるけど、そこはどう考えているの?」

 会長の言うとおりで、わたしもそれは折り込み済みだ。どの案も採用できそうだし、却下もできそうだ。だけど、「そんなのどうでもいいんですよ」

「どうでもいいって、そんな乱暴な」

「この辺の理屈は乱暴で結構です。要は実物を見つけてしまえばいいのですから。あとは警察のお仕事です」

 その後わたしたちは作戦を考えた。作戦と言っても綿密に様々な分岐を考慮して作り込んだわけではない。最初は探しやすい部室を、次に剣さんの持ち物を物色し、剣家は当然探せないから、最後の手段として隠している事実を伝える、ざっとこんな流れだ。部室に隠されている可能性が最も高いと踏んでいるが絶対ではない。なんとか都合よく物事が転がるようにと祈ることしかできなかった。

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