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 今日のお礼ということで、会長と一緒にご飯を食べに行くことになった。前回のお礼であるトランプとは違って、今回は純粋で変な意味はないそうだ。

 今日はご飯いらないと家族に連絡し、一緒に歩いて駅へ向かった。会長お気に入りのお店らしい。

「甘いお菓子と甘い恋物語を見ちゃったし、反対の辛いものでもと思って。辛いものは平気?」

「てんでダメです」

 わたしの舌は辛いものを全く受け付けず、我が家のカレーは未だに甘口しか出てこない。

 会長はすこしがっかりした様子を見せたが、

「まあ辛くないのも美味しいらしいから、大丈夫だよ」

 お礼とは口で言いつつも、結局は会長が食べたかっただけのようだ。奢ってもらう手前、こちらとしては口出しできない。

 連れてこられたのは、高架下の小さなラーメン屋だった。カウンターが六席だけの小さな店で、横引きドアが全開になっている。夕食としてはすこし早い時間だが満席で、五人ほど並んで待っている。

「今日は少ない。ラッキー」

 会長と一緒に最後尾に並ぶとすぐに何人かわたしたちの後ろに並び始めた。

 客の年齢層は高めで、わたしたちの制服が浮いているように見える。その様子を気にすることなく会長は楽しそうだ。

 回転率がよく、すぐにわたしたちは着席できた。メニューを確認する暇もなく会長が、「タンメンとタンメン閻魔!」

 カウンター越しが厨房になっていて、調理していた店員さんが振り向いた。まだ若いお姉さんだった。どうやら一人で切り盛りしているようだ。

「玲奈ちゃん、一週間ぶりじゃん。忙しかったの?」

「そうですね、生徒会が。なにせわたしがいないと運営できないものですから。姫田さんと同じで」

 ここだけの関係だと思って嘘八百を並べている会長を尻目に壁に貼ってあるメニューを見上げた。タンメンしかない。

 じゃあお腹減ってるね、すぐ作るよ、と言って店員さんは調理にかかった。

「タンメン閻魔ってなんですか。メニューにありませんけど」

「裏メニューだよ。タンメンが看板メニューで話題なんだけど、常連になると激辛メニューが頼めるの。辛さにもレベルがあって、蜂、蠍、痛み、閻魔、極寒、楽園とアップしていくってわけ」

「美味しそうな名前ではないですよね」

「それは何度も言ってるんだけど、姫田さんは裏メニューじゃないタンメン食べてほしいからあえて変な名前にしてるんだって。まあ今じゃそれが話題になってタンメンと裏メニューは半々の出だってさ」

 そうこうするうちにわたしの目の前にタンメンが置かれた。透き通ったスープにたっぷりの野菜。胡椒の匂いが食欲を刺激する。

 お先にどうぞと会長に言われたので素直に食べ始めた。麺は中太でもっちりしている。小麦の甘みを感じてこれだけで美味しい。野菜はシャキシャキしていて、スープにくぐらせると旨みと絡み合ってより美味しい。麺と野菜を一緒に食べると二つの甘みと香りが抜け、口の中の火傷を気にする暇もなく食べ進められる。つまらない表現だが、これは美味しい。

「美味しいでしょ」

 会長はまたも頬杖をついて目を細めている。

 わたしはタンメンを口に含んだまま頷き、すぐに食べるのに戻った。

 一息ついた頃に、「はい閻魔お待ち」と声が上から降ってきた。つられて横を見ると真っ赤に染まったタンメンが会長の前に置かれていた。漂ってくる湯気だけでわたしは涙目になり、むせかえった。あんなことをしたらせっかくのタンメンが台無しじゃないか。

「これを食べきると次から極寒を食べられるようになるの」

 会長は聞いてもいないのにそう言ってから箸を丼に突っ込んだ。持ち上げられた麺は唐辛子だろうか赤い粉が大量に付着している。湯気も心なしか赤く見えてきた。会長が麺を吸い込み、真っ赤なスープを二口飲んでから恍惚とした表情を浮かべた。

「これこれ。いやあ美味しい。麺類ならこのお店が一番」

 あんなに赤くては味なんて絶対に分かりっこない。野菜と麺とスープの繊細な組み合わせとバランスを全てぶち壊しているではないか。

 わたしたちは黙々と食べ続けた。食べ終わった会長の丼を見るとスープまで平らげていた。丼には赤い粉が少ししか残っていなかった。

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