第26話:抑えきれない想い
コンテストの打ち上げは、ジム近くの居酒屋で盛大に行われた。
「優斗さん、3位入賞おめでとうございます!」
「乾杯!」
ジムの仲間たちに囲まれ、俺は祝福の言葉とビールを浴びるように受けていた。
久しぶりに口にするアルコールは、減量で乾ききった身体にじんわりと染み渡っていく。
「いやー、マジで別人だよな、佐藤は」
「最初の頃なんて、ヒョロヒョロだったのに!」
「努力の賜物だな!」
仲間たちからの称賛が、素直に嬉しかった。笑い声と熱気に包まれた空間は、心地よくて、ずっとここにいたいと思えるほどだった。
けれど、そんな喧騒の中にあっても、俺の目は自然と一人の女性の姿を探していた。
梓さんだ。
彼女は、少し離れたテーブルで、他の女性トレーナーたちと控えめに微笑んでいる。主役である俺を立てて、輪の中心から外れてくれているのだろう。
その気遣いが、たまらなく愛おしかった。
「ちょっとごめん」
俺は仲間たちに断りを入れると、ビールジョッキを片手に、そっと輪を抜けた。そして、梓さんの隣へと向かう。
俺の姿に気づいた梓さんが、少し驚いたようにこちらを見た。
「梓さん。今日は、本当にありがとうございました」
改めて、真正面から感謝の気持ちを伝える。
「梓さんがいなかったら、俺、絶対にあのステージには立てなかったです」
「いいえ。私の方こそ、最高の景色を見せてもらいました。本当に、感動しましたよ」
梓さんは、心から嬉しそうに、ふわりと花が咲くように笑った。
その笑顔を見た瞬間、俺の中で何かが弾けた。
コンテストという大きな目標を達成した高揚感と、少しだけ入ったアルコール。そして、ずっと胸の奥に燻っていた熱い想い。
もう、抑えることなんてできなかった。
「あの、梓さん」
俺の声色が、一瞬で真剣なものに変わったのに気づいたのだろう。梓さんの表情も、わずかに引き締まった。
周りの喧騒が、嘘のように遠のいていく。俺の世界には、目の前の彼女しかいなくなった。
俺は梓さんの目を、まっすぐに見つめた。
もう、迷わない。
「好きです」
はっきりと、告げた。
「トレーナーとしてじゃなく、一人の女性として、梓さんのことが好きです。俺と、付き合ってください」
静まり返るテーブル。
いや、違う。俺の言葉に気づいた周りの仲間たちも、いつの間にか会話を止め、固唾をのんで俺たち二人を見守っていた。
居酒屋中の視線が、俺たちに集中している。
梓さんは、大きな瞳をさらに大きく見開いて、驚きに固まっていた。
その唇が、わずかに開く。
彼女の答えを、俺は心臓の音を聞きながら、じっと待っていた。
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