第2話

次の日の、


午後の光が傾き。


「理不尽を文学にするのが反純文学保守派の主仕事」

乃雨はシャーペンをくるくる回しながら、机の上の原稿用紙を苦暗く言う。


「乃雨さんは、言訳が上手、たぶん小説家ではなくて、弁護士になれると思う」華波。


「褒めてなーい」乃雨。


「そ……皮肉……」華波。


ふたりの間に流れる空気は、ゆるく、しかし会話は、もはや日課のようになっていた。


「……この星で、あなたを想う」

華波はぽつりと口にした。

「気取ってない?」


「翻訳文学戯れ」


「内容はどうするの?」


「書けない」


「また?」


「純文学保守派は何を守ってるのかな?伝統とか、格式とか、書き方の型?の安全保障……つまらな過ぎる。反純文学保守派の……超人物、超情景描写、超越起承転結、立体思考的文体の統一……カタルシス否定、物語意味性の不在と反発は偽装嫌悪的原形質純文学から理論立脚している」乃雨。


「カカナイジブンセカイノヘイワダトオモワレマス」華波。


「ふふん。……人間は死ぬんだよ

楽しいことはすぐ消える……」

乃雨、笑。


「原稿用紙の上の白は、ただの余白じゃない。そこに何を書いても完璧は白」華波は少し真顔。


「私、書記だから」華波は強調する。


そう言うと、華波は、乃雨の隣に腰を下ろした。制服のスカートがふわりと広がり、その繊維曲面と紺布地が窓外から伸びる光に触れるたびに淡い光彩を帯びて、柔らかく透ける。原稿用紙に書き付けられた文字のように、光は彼女の輪郭に細かく入り込み、ほんのり温かく、微かな金色の輝きを散らし。肩の角度、腕の傾き、膝の向き、指先のわずかな動きまでが、時と間をゆるやかに刻むように、息をひそめるように。彼女の黒髪の一本一本が、光の中で微細な影を落とし、肌の白さを際立たせた。


彼女の容姿は柔硬いけれど、刺がある。


部屋窓外の風が、カーテンを静かに揺らして。



「純文学保守派文学は文人書人と、文人非書人が交互に窒息し合って、幼児性反抗期」

華波は笑。


「文芸的反抗期幼児性反抗反純文学保守派」

乃雨も笑いながら、シャーペンを指でくるりと回転させる。


「文芸的反抗期幼児性反抗反純文学保守派って造語、いいね、純文学保守派より、ましって意味で……」華波(笑)。

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