第1話
午後の光が文芸部部室に差し、部活動が終わる刻。
「スランプ有。アイデア無。プロットがあれば書ける?
そんな科白は1000億光年(9.461×10²⁶ m)早。乃雨さんが小説を書かないなら、文芸部の椅子は無『実罰課題』として、純文学保守派短編小説を書くこと。
尚、貴執筆作品の査評価は担当評価班文芸部書記兼備品零壱〈華波青〉」
乃雨は文芸部部長の手紙を家に持ち帰ることにした。そもそも自分が悪い。毎月毎月、書かない部員の私。友達なのか?彼女なのか?わからない華波さんに「今月も書けないの?文芸部部長が副書記兼備品零弐にするって言ってる……どうするの?」と問い詰められて「それでいいですうぅ」としか返答できず。彼女に「書記って雑用係だよよ。いいの?」と結局二人話し込み過ぎ、一緒に帰ることになって。その、ついでなのか自分の家に寄る華波さんに、文芸部部長の実罰課題対策相談に乗ってもらうという頭悪な日々だった。
乃雨は食料品入り紙袋を抱え、細い路地を歩いている。文芸部の課題は、単なる文字数やテーマ制約ではなく、純文学存在的価値を問う宇宙用長距離航空地雷装置で……。うーん。なんか適当?
乃雨は自家玄関で靴を脱ぎ、部屋の炬燵上に食料品入り紙袋を置き、封を切った、部長の要求手紙記の『純文学保守派短編小説』の文字列を眺めた。
「どーしよ……」乃雨は部長の暴力的期待、華波青の低温視線、自分の無力感。すべてが同時混合し渦巻いていて、しかし華波さんの存在は、乃雨にとってある種の安心感でもあり、(無言圧)でもあった。
華波さんに「手伝ってくれるの……?」と聞くと。
「……助言は出来る……乃雨さんが書くのを、やめないなら……たぶん……だけど……」と華波さんは、真剣な眼差しで乃雨を見て言うのだった。
***
「タイトルは?考えた?」 華波。
「反純文学保守派短編小説だから
《この星で、あなたを想う。》
《I Think of You on This Planet》
とか?」乃雨。
「反純文学保守派?」
「純文学保守派短編小説なんて無理。だから、無理ってことで反純文学保守派短編小説なのです」
「いきなり脱線(笑)部長の要求課題無視ね」
「部長だって純文学保守派短編小説なんて書けないと思う」
「私も書けない」
乃雨はノートの端を指でなぞる、と書きかけ文と二人の声が交差する。
「何故無理に小説書けと部長は?」
「あなたが文芸部部員だからです」
「愚問でした」
華波はカーテンを引いた。
外は冬。
華波は乃雨のノート表紙部を色マーカーペンで彩色している間。
部屋外は冬巻風が樹枝をすり抜けていた。
華波の彩色字線が走るノート表紙部のクリスマスツリーイラストに灯りが点く。
乃雨の文芸部課題は暗く重い。
薄原稿用紙の上に広がる彼女の内側世界も又、それと同質量だったかもしれない。
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