第13話 修行の成果

 ―それから、二年ほど経った。


 フェレール……いや、師匠に稽古を付けてもらった俺達は日々成長しており、レベルやステータスだけじゃなく、スキルも増えていた。


 『プリテスタファンタジー』の物語が始まるのは今から約五年後……少なくとも、マフィが十七歳の時だ。そして、その前に孤児院は取り壊され、ミュラのラスボスフラグが生まれてしまう……それだけは何としても阻止しなければならない。


 あれから平日は孤児院まで師匠が稽古を見に来てくれるようになり、俺達は木剣を使った修行に明け暮れている。そんな俺達のステータスを簡単に言うと、俺のレベルは35、続いてマフィが18、ミュラ、エリシルはともにレベルは20となっていた。


 そこでもう一つ分かったことがある。どうやら、『女帝』のスキルを持っている二人は同じステータスになるらしく、それぞれ二人とも経験値を得ることができるようで、二倍の速度で成長するようだ。まあ、その二倍の速度以上にレベルアップしている俺は相変わらずよく分からないんだが……。


 そうして、俺達が剣の稽古で打ち合っていると、師匠が手を叩いて声を上げた。


「―そこまで。一度、休憩にするぞ」


 師匠の合図に俺達は稽古を中断し、上がっていた息を整える。そして、俺、マフィ、ミュラ、エリシルの四人が師匠の下へ集まると、師匠はゆっくりと頷きながら声を返してきた。


「ふむ……お前達、かなり力を身に付けたな。だが、それでも過信は禁物だ。あくまでも、お前達の年齢で考えれば上出来というだけに過ぎず、世の中にはお前達よりも強い者も多い。ゆえに、力量に差がある相手と遭遇した時は可能な限り戦闘を避けるようにしておけ。もっとも、あの腑抜けた今の騎士団にお前達にかなうものは居ないだろうがな」

「はい」


 そんな師匠の言葉に返事を返すと、みんなが笑顔になる。そして、俺はというと……実は少し考えていたことがあり、それを師匠に尋ねようとかと考えていた。


 そう、それは―『隠しダンジョン』と『隠し武器』のことだ。

 多くのRPGには隠しダンジョンと隠し武器が存在しており、そういったものはほぼ間違いなく普通に物語を進めるよりも強い。そして、それは『プリテスタファンタジー』も例外ではなく、持っているだけでストーリーが簡単にクリアできるほどのチート武器だったりする。


 とはいえ、その隠し武器があるのは隠しダンジョンだ。

 少なくとも、序盤で行ける場所じゃないし、そこに居るモンスターはかなり強い。しかし、ここを守るためにその隠し武器は手に入れておきたい。そのためにはまず実戦……モンスターとの戦いにも慣れておいた方が良いと考えたのだ。


「あの、師匠。少し聞きたいことがあるんですけど」

「ん? なんだ、シュウ。言ってみろ」

「はい。俺達はまだ見たことがないんですけど、街の周りにはモンスターが居るんですよね?」

「ああ、そうだな。街道を渡る時などに遭遇することもあって、行商人などは傭兵達に護衛をしてもらうことも多い」

「それで、例えばの話なんですけど……外でモンスターと戦ったりはできませんか?」

「何……?」

「シュウ!? モンスターと戦うなんて本気で言ってるの!?」


 俺の言葉に師匠が目を細めると、ミュラが声を上げ、それを皮切りにマフィとエリシルも驚きながら声を返してきた。


「ミュラの言う通りよ! モンスターと戦うなんて危険よ!」

「た、確かに、シュウは前に騎士の人を追い払ったり、稽古でも一番強いけど……それでも、モンスターと戦うなんて危険だし、私も反対よ!」

「でも、せっかく強くなったし、腕試しをしてみたいんだ。稽古で基礎を磨くのはもちろん大事だけど、それだけじゃまた騎士団の連中が来た時に苦戦するかもしれないからな」

「それは……そうかもしれないけど……」


 そう答えた俺にミュラがマフィやエリシルと顔を合わせる。

 しかし、さすがに俺がモンスターと戦うことを心配してくれており、納得はしてくれなかった。とはいえ、俺がモンスターと戦う理由は他にもあった。


「それと、実はモンスターと戦いたいのは腕試しだけが理由ってわけじゃないんだ」

「え? 腕試しだけが理由じゃない……?」

「それって、どういうこと?」


 俺の言葉にマフィとエリシルが声を返すと、俺は孤児院に軽く目を向けながら話を続ける。


「正直に言うと、今の孤児院の食事はかなり厳しい……成長期である子供にとって栄養が足りないのは問題だ。だから、それを解決するためにモンスターと戦おうと考えたんだよ」

「いや、シュウも子供じゃない……」

「まあ……」


 中身はもう社会人だけど。


「ともかく、それであの食事を続けるのはさすがにキツイだろうし、モンスターを倒して素材を売って、その金で美味い飯を食べれないかと思ってな」

「ふむ……そういうことか……」


 俺の言葉に師匠が考え込むように顎に手をあてる。

 実際、『プリテスタファンタジー』では、倒したモンスターの素材を売ってお金にすることができる。もっとも、ゲーム内では大した金ではなかったが、それでも飯を少しマシにするくらいなら充分じゃないかと考えたのだ。


 隠しダンジョンの攻略の練習ついでにみんなの生活も安定できる。まさに一石二鳥ってやつだ。そんな中、孤児院の中から少女が歩いてくると、俺の隣に来て服の裾を引っ張りながら小さく声を上げた。


「リラルタ? どうかしたのか?」

「シュウ……それに、ミュラ、エリシルも……ミエク先生がお昼ご飯ができたって……それと、マフィとお師匠様も一緒にどうかって」


 彼女の名前はリラルタ。俺達と同じく孤児の一人で今年で七歳になり、無口で感情表現が乏しいが仲間想いの優しい子だ。


 ただ、残念ながらリラルタは『プリテスタファンタジー』では名前すら登場していない……つまり、この後に起こる騎士団の侵略で孤児院ごとその姿を消した一人ということだ。


 ミュラとエリシルだけではなく、最近ではマフィにも懐いている彼女はようやくたまに笑顔を見せるようになった。あの時、エリシルが死にそうになった時に何よりも悲しみ、しばらく笑うことがなくなったリラルタの笑顔をもう失くすわけにはいかない。


 そうして、俺が決意を固める中、マフィは困惑した表情を浮かべながら師匠に言葉を投げかけた。


「えっと……お師匠様、どうします?」

「……本来なら厳しい孤児院の状況を考えれば、断りたいところだが……シュウ、さっきの話、本気なんだな?」

「え? あ、はい。もちろんです。俺はもっと強くなってみんなを守りたいですし、モンスターを倒せば今よりもずっと生活は楽になるはずですから」

「……ふぅ、そこまで決意しているのなら、断るのは野暮というものか」

「じゃあ……」

「ふむ……ならば、ここを管理している彼女に許可を取る必要があるだろう。すまないが、私達もご相伴に預かるとしよう」

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