第7話 モブ、修羅場フラグを立てる
「―そういえば、最近、わたし達が河原で稽古してるの噂になってるみたいね」
孤児院でいつものように食事をとっていると、ミュラからそんなことを言われた。そんなミュラにいつものようにあまり味のしないスープを飲んでいた俺は声を返す。
「そうなのか? まあ、ミュラもすごい強くなってきたし、剣筋も良い感じになってきたしな」
そう言って、俺はミュラのステータスを確認する。
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Lv 15
『女帝』
全ステータス上昇補正【大】
全状態異常耐性【大】
魔法【上級・全属性】
『剣士』
武器ダメージ増加
剣撃【小】
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ミュラのレベルは15になり、新しく手に入れた『剣士』のスキルのおかげで、『武器ダメージ増加』と『剣撃【小】』が使えるようになった。『剣撃【小】』は距離はそれほどではないものの、対象に衝撃波を飛ばすRPGでよく見掛けるスキルだ。
そして、俺はというと―
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Lv 30
『』???
基礎ステータス上昇【鍛錬】
魔法ステータス上昇【鍛錬】
魔法【初級・全属性】
武器補正上昇【鍛錬】
剣撃【小】
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見ての通り、相変わらずスキルが『』と空白のままなのは変わらないものの、ミュラと同じく『剣撃【小】』を覚えたわけだが……なぜか、レベルが30とすごいことになっていた。なんかレベル上がり過ぎじゃね?
いや、まあ確かに、ミュラが稽古の休みの時はマフィと稽古をしてるから多少上がるのは分かるけどさ……それにしても、上がり過ぎなような……しかも、なんかスキルがミュラと違うし……ミュラが『武器ダメージ増加』なのに、『武器補正上昇【鍛錬】』ってなんだ? こんなスキル、『プリテスタファンタジー』にはなかったぞ?
そうして、俺がステータスの表記に疑問を抱いていると、ミュラが声を返してくる。
「わたしよりシュウの方がすごいじゃない。いつの間にか魔法も使えるようになってるし、それで私の分の木剣も作ってくれたし……」
「ん? あぁ、あれか」
それは少し前のことだ。
いつものようにミュラを連れて河原で稽古をしようとした俺は風の魔法で木剣を作り、それをミュラに渡したのだ。
「ほら。やっぱり、形だけでも剣を使った方が稽古って感じがするだろ?」
「それはそうだけど……うん、まあ、ありがと……」
そんな感じでミュラはその木剣を使って稽古をしていき、以前よりも鋭さを増している。そうして、その時のことを思い出していると、ミュラが訝しげな視線を向けながら声を返してきた。
「それにしても、どうしていきなり剣の稽古なんてしようと思ったの? ……まさかとは思うけど、騎士団に入るため、とか言わないわよね?」
「そんなつもりはないから安心してくれって。まあ、強いて言えば、みんなを守るため……かな?」
「みんなを……? それって……」
そう言って、ミュラは少し向こうで俺達の話を聞いていたエリシルと顔を見合わせる。恐らく、例の王国が孤児院を潰そうとしていることを俺の話から察したのだろう。
二人は何とも言えない表情で俺を見てくると、他の孤児達には分からないよう配慮しながら声を返してきた。
「シュウ……気持ちは嬉しいけど、無理はしないでね? 先生もどうにか待ってもらうように話をしてもらってるから……」
「エリシルの言う通りだよ。怪我でもしたら危ないし……」
「大丈夫大丈夫。別に無理なんてしてないからさ」
「そう? なら、良いけど……」
エリシルが心配そうに返した後、急に雰囲気が暗くなってしまった……まあ、状況が状況だし、仕方ないが。
とはいえ、二人にそんな顔をして欲しくはない。よし、ここは稽古の思い出話でもエリシルに聞かせて笑わせてやるとするか。
「そういえば、あの時はすごかったよなぁ、ミュラ?」
「……え? 何の話?」
「俺の剣が木に刺さって抜けなくなった時だよ。いや~、あれは焦ったよな~」
「何それ、知らないんだけど……」
「ん? いや、二人で稽古をしてた時の話だぞ? それで、お前が風属性の魔法を使ってくれて、でもまあ、おかげで結局マフィの風属性の精度も上がったし、結果オーライだろ?」
って、あれ? それって、ミュラと稽古してた時じゃなくてマフィの時の話じゃね?
そうして、俺が疑問に抱いていると、なぜかミュラから凄まじいオーラを感じる。理由が分からない俺が首を傾げている中、ミュラはいつもよりも少し冷たい声を返してきた。
「……ねえ、シュウ」
「ん? どうした?」
「……稽古って、わたし達だけでやってるんだよね?」
「ああ、そうだな」
ミュラを誘った時はマフィが忙しくて一緒にやってないし。
「……そう。なら良い。あ、それと、今日もエリシルと買い出しに行くから稽古は休むから」
「ん? ああ、分かった」
マフィにそう返すと、マフィは再び食事を再開し、俺も同じように片手に持ったパンにかじりつく。そして、そんな俺達を見ていたエリシルも安堵したように笑顔を見せて食事へと戻っていった。
「今日もマフィを誘ってみるか」なんて、のんきに思いながら―。
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