戦国🏏BASEBALL 大谷吉継・山本勘助・佐々木小次郎(武蔵を打倒!)

鷹山トシキ

第1話 三津原勇気の夢:種子島ベースボール異聞

 漆黒の宇宙空間に浮かぶISS(国際宇宙ステーション)の一角。無重力の中、宇宙飛行士の三津原勇気は、慣れた手つきでタブレットを操作していた。彼の目は、地球を周回する美しい青い惑星ではなく、画面に映し出された古めかしい日本の合戦図に釘付けになっている。

​「ふむ、この長槍隊の配置、見事だな……しかし、もしここにホームベースを置くとしたら、どう守る?」

​ 勇気はブツブツと独り言を呟きながら、手元にあった宇宙食のパッケージを丸め、即席のボールに見立てて軽く投げては捕る。彼の心は常に、歴史と野球という二つの情熱の間を行き来していた。特に、もし戦国時代の武将たちが野球をしたらどうなるだろう、という妄想は彼の日課となっていた。

​「上泉信綱の剣捌きでバットを振ったら、どんな打球が飛ぶだろう? 島津義弘の退き口は、まるでランナーの牽制球を誘い出すかのようだ」

​ そんなある日、勇気はISSの窓から地球を眺めていた。ちょうど彼らの下には、日本の南に浮かぶ小さな島が見えている。種子島だ。

​「種子島か……鉄砲伝来の地。もし、あの時代に野球が伝わっていたら、とんでもないことになっただろうな」

​ 彼の脳裏に、突如として鮮烈なイメージが駆け巡った。

​ 1543年、種子島。漂着した南蛮船から降り立った異国の商人が、島主・種子島時尭の前で、見たこともない奇妙な道具を取り出す。それは、木製の棒と、革で覆われた丸い球だった。

​「これこそ、遥か海の向こうの国で親しまれている、ベースボールという競技にございます」

​ 通訳を介して説明されるルールに、時尭は興味津々だ。

​「ほう、敵陣を攻め、本塁へ帰還すれば一点か……まるで戦ではないか」

​ そして、勇気の想像はさらに加速する。

​ 鉄砲の伝来により、日本の戦の形が一変したように、もし野球が伝来していたら、種子島は「ベースボール伝来の地」として、新たな歴史を刻んでいたかもしれない。時尭は、鉄砲の鍛冶職人たちに、硬くて丈夫な木材で「バット」を作らせ、革職人には「ボール」の製造を命じた。

​ やがて、種子島の浜辺では、鎧兜を身につけた武士たちが、慣れない手つきでバットを振り、ボールを追いかける奇妙な光景が繰り広げられる。

​「打てー! 我らが種子島衆の意地を見せよ!」

​「鉄砲隊! 守備位置につけ! あの打球は捕らえるぞ!」

​ 火縄銃の訓練の合間に、彼らはベースボールに熱中した。それは、戦の厳しさとは異なる、しかし同じくらい熱い、新たな戦場だった。

​ 勇気は窓の外の種子島を見つめながら、その光景をまざまざと夢想する。いつか、自分もその時代にタイムスリップし、戦国武将たちと共に白球を追いかけたい。そんな壮大な夢を胸に抱きながら、彼は再び宇宙食のボールを高く投げ上げた。

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戦国🏏BASEBALL 大谷吉継・山本勘助・佐々木小次郎(武蔵を打倒!) 鷹山トシキ @1982

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