第2話 乙女ゲーム前夜(1)

『思い出して下さい』

「あん、うるさい」

『思い出しましょう』

「誰なのよ。うるさいわよ」

『思い出せ』

「うるさいって言ってるのに、しつこいわね」

『思い出しやがれ。この寝坊助女』

「誰が寝坊助女よ。もう思い出したわよ。だから静かにしてよ」


謎の声に導かれて、前世の記憶が蘇った。

その記憶によると、此処はラグリット王国を舞台とするゲームの世界だ。

三部構成で一部が乙女ゲーム、二部がシミュレーションゲーム、三部がロールプレイングゲームだ。

私は婚約者である王太子に断罪され、破滅する公爵令嬢レアル・フロイトに転生した。

このまま破滅なんか冗談じゃない。

絶対に王太子との婚約を拒否してやる。

断罪の裏には宰相という黒幕が居る。

宰相が断罪を企てた理由は不明だが、宰相も巻き込んでやろう。

しかしどうやって巻き込んだら良いんだ。

(思い付いた)

王太子からの婚約を提案される前に宰相に婚約を申し込んでやる。

幸いにも宰相は未だに独身だし、侯爵だから公爵令嬢からの婚約は拒否し辛い筈だ。

結局は断られるだろうが、嫌がらせにはなるし、王太子との婚約を保留にして貰う口実になるかもしれない。

ちなみに私が裏の事情に詳しいのは乙女ゲームのシナリオライターだったからだ。


「父上、宰相閣下に私との婚約を打診して下さい」

「レアル、馬鹿な事を言うな。宰相は私より年上なんだ」

「分かっています。私の理想は包容力の有る頼れる男性なんです」

「駄目だと言ったら駄目だ。本気にされない決まっている」

「それでも一度で良いので、打診して下さい」

「・・・分かった。一度だけ打診してやる」

「ありがとうございます。父上」


「兄上、フロイト公爵家から書状が届いています

「フロイト公爵家からだと」

「どんな内容ですか」

「馬鹿馬鹿しい。私とレアル嬢との婚約の申し込みだ」

「レアル嬢ですか、確か七歳の筈ですよね」

「そうだ。冗談にも程がある」

「それでは断るのですね」

「当然だ。待てよ、茶番に乗るのも面白いかもしれん。了承したと返事を出そう」

「兄上、戯れが過ぎます」


「レアル、宰相から返事が届いた。婚約を了承するそうだ」

「待って下さい。本当に宰相は了承したのですか」

「そうだ。宰相の奴、一体何を考えているのだ」

単なるなる嫌がらせだったのに、マジで喰い付いて来たのか。

もしかして宰相はロリコンなのか。

(まぁ、了承した理由はどうでも良いか。これで保留ではなく拒否に持ち込める。予想外だったけど、とても面白くなったわね)

レアルは黒い笑顔になった。


確か悪役令嬢は無属性魔法と闇属性魔法が使えて、カンストすると暗黒魔法を習得する資格を得られる筈よ。

取り敢えず身体強化と魔法の習得を目指そう。

まだ7歳の身体なので、軽い筋トレと魔力制御の訓練からにするか。


(ふぅ、疲れた)

腹筋を三十回、腕立て伏せを四十回、スクワットを五十回行った。


(どうして魔力を感じないのよ)

精神を集中したが、体内に魔力を感じる事は出来なかった。


(これが魔力よね。やっと感じた)

就寝直前に魔力を感じる事が出来た。


(魔力を感じられたから、明日は魔法に挑戦しよう。・・・そろそろ寝ようかな)

魔力を感じたので、安心して眠りに入った。


(先ずは闇属性魔法を発動させよう。え〜と、確か一番簡単なのは召喚魔法だった筈よね)

闇属性魔法の召喚魔法の発動を試みた。


【召喚】

(・・・駄目だ。発動しない)

【召喚】

【召喚】

【召喚】

しかし何度やっても発動しなかった。

(絶対に諦めないからね。王太子の生誕7周年の祝いまでには発動させてみせる)


【召喚】

「いやぁ、Gだ」

(・・・使い魔を召喚したけど、どうしてGなのよ)

使い魔召喚を成功させたが、召喚したのは害虫のGだった。

(Gを召喚したくらいで、満足してなんかいられないわよ。もっと強い使い魔を召喚してみせる)


【召喚】

「げぇ、蝿」

【召喚】

「今度は蚊だ」

【召喚】

「・・・蜂」

【召喚】

「・・・蛾」

【召喚】

「・・・蜘蛛」

【召喚】

「・・・蟻」

(どうして害虫の使い魔しか召喚出来ないのよ)

蝿と蚊と蜂と蛾と蜘蛛と蟻を召喚したが、全て害虫の使い魔だった。


【召喚】

「いやぁあああ、蛇だ」

【召喚】

「げぇえええ、鼠」

【召喚】

「・・・蜥蜴」

【召喚】

「・・・蛙」

(やっと虫系以外を召喚出来たのに何故なのよ)

蛇と鼠と蜥蜴と蛙の召喚に成功したが、女性が嫌がる生物ばかりだった。


【召喚】

「やった〜。狼だ」

ようやく猛獣の使い魔を召喚した。

【召喚】

「今度は猪だ」

【召喚】

「虎だ」

【召喚】

「熊だ」

猪と虎と熊も召喚出来た。


【召喚】

「鴉だ」

【召喚】

「鷹だ」

更に鳥類の使い魔も召喚出来た。


「さてと、無属性魔法に挑戦しようかな」

【亜空間収納】

亜空間に物品の収納が可能になった。


【転移】

森から自室への転移も成功した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る