タバコ臭い

 突然とタバコ臭くなった。待合席での待機をしていると、突然鼻を曲げたくなる程臭いタバコの臭いが漂った。

 左手側に座っている隣の少年が顔しかめている。すると、その少年は左に詰めた。そこは壁だが、少年はそこに体を預けるようにし、僕と距離を離した。恐らくだが、少年はタバコの臭いの原因は僕と勘違いしたようだ。僕はタバコなんて吸わないし、金輪際吸わない、何よりも僕は未成年だ。少年は僕が未成年だなんて知るはずもないだろう。なぜなら、僕はマスクをしているし、何よりも少年がこっちの顔を確認するような素振りをしていないからだ。そもそも、未成年という概念を知っているのだろうか。くそ、タバコ臭い。出入り口が開く度にタバコの臭いが改めて臭いを認識させる。まだ、この部屋に充満しているのだろう。僕は誰がタバコを吸ったのか知っている。そして、その臭いを漂わせ、少年や僕に不愉快な気持ちをさせているのは、どうにか断罪したい。

 少年がこちらに振り向いた。そして、僕にこう尋ねた。

「臭いですよ」この一言に、一体どれ程の憎みや怒りが込められているのか、僕には理解出来る。僕はさすがに、弁解した。

「少年、君はタバコの臭いをいつくらいに感じ取ったんだ?」

「さっき」

「さっきというのは、僕が来た瞬間かな。そうであるならば、僕が少年の前に横切ったときにタバコのくさい臭いがしたはずだけど?少年はそのとき臭いと思ったの?」

「……ううん。時間が経って臭くなったと思う。」

「僕が横切ったとき臭くなかったのは、僕は何も臭っていないからと言えるけど、どう?」

「うん、そうだね、僕はお兄さんが臭いと思ってた。でも違うみたいだね」

「臭いのは僕じゃないのは分かったね。恐らくなんだが、臭いのは、少年が臭いと感じたそのときなんだ。つまり、そのとき人がここに入ったときなんだ。」

「ていうことは、その人が犯人?」

「その通り、確信は得られないけど、可能性は濃厚」

「すごい、ありがとうございます。教えてくれて」

「ううん、分かってくれて嬉しいよ」

僕が臭いのは弁解出来た。でも、タバコくさい臭いが消えるわけではない。これは、犯人を外に追っ払うわけには行かないし、犯人を注意したところで、結局根本的な原因のくさい臭いが消えるわけではないので、どうしようもない。

 ファブリーズを持ってくれば良かったな。ここの、お店にあったとしてそれを頼んでも、僕は恐らく失礼な迷惑野郎と思われるだろうな。

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