探査船プル

能登

発進

 プルはいよいよ海中深くに向けて発進した。1人の男と犬、わずかばかりの食料を載せたプルは、沈没したタイタニックを目指し進んでいく。男は希望と夢を底知れない海の深さに見ていたが、そんなものは幻想であると神は否定したらしい。プルは水深約3000m地点で停止した。

 男は考えうる限りの行動をとった。だがどれも浮上のきっかけにはならず、壊れたポンプを1960年代のスーパーコンピュータのような複雑怪奇なものにさせるまでに留まった。

 数日が過ぎると、男はとうに食料を使い果たしていた。窓に反射した自分の姿を自嘲し眠りにつくような、意味の無い行為を繰り返した。

 男は犬の右前脚を食べた。独特の臭みが印象的だった。罪悪感などのそれは、数日の自嘲と共に捨てていた。犬の脚には服をちぎって止血をしておいた。翌日かは分からないが、男は左前脚を食べた。3本の脚で慣れない走りをする犬との追いかけっこには飽きたらしい。臭いにはもう慣れたようだ。

 次に腹が減った頃合いで、男は後脚にかぶりついた。暴れ吠える犬の頭を左脚で抑え、両手を使いながら丁寧に食べた。気づいた頃には、犬は脚の重みで死んでいた。

 おそらく数日に分けて、男は犬を食べた。海の底に希望は無く、犬食文化の再構成が行われるだけだった。

 男は右腕の前腕部にかぶりついてみた。犬よりは美味しかった。次に右脚、左脚を食べ、右腕に差し掛かるところで、ショックで死んでしまった。

 プルは、神の感情を体現するかのごとく、死体2つを載せてゆっくり浮上していった。



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探査船プル 能登 @Notmy

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