反魔王派ですよ魔王様
「…」
「魔王様?」
「…」
「魔王様!?」
「え…あ、すみません」
依頼者から彼らのアジトを読み取り、そこに向かっている途中、少し呆然としていたようで、アンナに声をかけられ我に返った。
「どうかなさったのですか?先ほどの者に読心術を試みてから様子が…」
「あ、いえ…」
どうやら相当深刻そうな顔をしていたらしい。
アンナに心配をかけたようだ。
「あの方の心を読んでみた所、どうも気になることが…」
「気になること?」
「はい、どうも彼は以前の私が魔王だった頃に私のやり方に反対していた勢力のメンバーだったようで…」
「いわゆる反魔王派ですね」
「はい、しかも今でもそういうグループに所属しているようで…」
「なんですって!?」
アンナはかなり驚いた表情をして叫んだ。
「私が勇者に倒されてから20年以上経ってるのに未だに命を狙ってくるとは、以前の私はそんなひどい事してたんでしょうか…」
「私はまだその頃子供だったので詳しくは知らないのですが、私の生まれ故郷では魔王様の事悪く言ってる大人は居ませんでしたね」
「…」
「私の故郷は鉱山の街でかなりにぎやかでしたが、魔王様の政策もあってかなり発展したと聞いています」
「なるほど…」
確かに今まで回った街で聞いても私が人間との戦争より国内の開発を最優先にしていたという話ばかりだった。
不満のあった者も「国も力をつけたし早く攻めよう」という感じの意見が多かった。
だが、皆が隠しているだけで、相当ひどい事をしたりしてたのではないか?という疑惑が浮かんできて止まらなかった。
「魔王様、考え過ぎではないですか?」
「そうかもしれません…ただ、彼の心を読んで、もう一つ気になる事があったんです」
「というと?」
「実は彼の所属していた派閥…人間の一団を国に引き入れていたようなんです」
「…まさか!?」
「はい、今では勇者と呼ばれている…ジャン殿の一団です…」
「それでは完全な反逆罪ではないですか!」
「そうなりますね…彼らはそこまでして私を亡き者にしようとしてたんですよね…」
「これは大問題だ!彼らのグループを捕らえねばなりません!」
一連の話でアンナがキレそうになっている。
「…ですが、心を読む術でも、彼らがなぜそこまでしたのか、その理由までは分からなかったんです…」
どうしても答えたくないのか、読心術を行っても「いや」「ああ」などの曖昧な返事しか来なかったのだ。
「だから、私…」
「でしたらなおさら彼らを捕らえる必要があります!そしてその理由を問いただしましょう!」
「…ですね」
そして私たちは彼らのアジトへとたどり着いた。
今目の前にある、町はずれにある倉庫の地下がそれのようだ。
「中に4~5人の魔族がいますね」
「応援を呼びますか?」
「いえ、私がまず一人で入ります」
「しかし危険です!」
「…大丈夫です」
そう言って震える手で地下室への入り口のドアを引きちぎった。
「な、なんだ!?」
中から男性の声が聞こえた。
私は魔力を解放して地下へと飛び降りた。
「…ま、魔王様!?」
皆私の事を見て驚いた。
まさか本人が乗り込んでくるとは思ってなかったようだ。
室内が魔力の風圧で色々な物が吹き飛んでいた。
「皆さん初めまして…いえ、あなた方からするとお久しぶり、になるんですかね?」
「な、なぜ魔王様がこんな所へ…」
「私の暗殺をしようとした人間がいまして…それから依頼者をたどってここにたどり着いたような次第です」
「なんという事だ…これではもう我々の悲願も…」
全員こちらを攻撃する様子も見せず、うなだれていた。
「これから衛兵に引き渡すことになりますが…その前に…なぜ私を何度も殺そうとしたのか…その理由をお聞かせ願えますか?」
皆、私にこの場で始末されるのを覚悟していたが、衛兵に渡されると聞いて困惑しているようだった。
お互いの顔を見合わせている。
「こうなったら…」
「いや、でも…」
皆がああでもないこうでもないと焦りながら話し合っている中、最年長の者が手を上げた。
「もうこうなったら諦めるしかない…だが、魔王様に話だけでも聞いていただくとしよう…」
そう言って覚悟を決めたような様子で話し始めた。
「我々は皆、人間どもに村を攻められ、故郷を追い出された者です」
「…!」
「散り散りになって数年後、色々あって皆集まって別の村で暮らしていたのです」
最年長の者は悲しそうな顔をして話を続けた。
「皆また故郷へと帰りたいと思っていました。いつか、故郷から人間を追い出し、あの地へと帰る事を夢見て暮らしていました…」
「…」
「ですが、魔王様は動いてくださいませんでした…」
「かつての私…がですか?」
「はい…魔王様は訴えに出た我々の前にわざわざ姿を現してくださり、今はその時ではない、国を富ませるのが先だとおっしゃってました」
「…なるほど」
「そして我々も魔王様の政策に従って待ち続けました…ですが、その日は来ませんでした…」
彼より若い者たちは泣いているようだった。
「我々も魔王様の政策が間違っているとは思いませんでした。ですが、国が力をつけてもつけても我々は故郷へ帰ることができませんでした…」
「…」
「そこで我々は考えたのです。次の魔王様に代替わりをすれば、我々の望みもかなえてもらえるのでは…と」
「…なんという事を…」
「そこで我々はたとえ同胞に裏切り者だと言われる事になろうとも、人間の一団が国に潜入する手引きをして…暗殺する事に決めたのです…」
「…それで以前の私が死んだのですね?」
「はい…ですが、次の魔王様はなかなか現れませんでした。新たなる魔王を任命するより、とりあえず現状維持であなたの政策を続けようという動きがあったのです」
「なるほど」
「我々は耐えました…ですが、魔王様が復活したと聞いて、絶望的な気分になりました。これではまた我々の悲願はかなえられることが無いと…」
「…」
「ですので、また人間の手を借りて…」
すると彼は地面を叩いて私に問いかけてきた。
「なぜです!なぜ魔王様は動いてくださらなかったのです!?それだけの力があって、国もかなり力をつけたのに…どうして我々や他の故郷を人間に追い出された者たちの土地を取り返してくださらなかったのですか…」
彼は泣きながら訴えてきた。
「今の私には以前の記憶はありません」
「え!?」
「ですので、当時の私がどういう理由で人間の土地へ攻め込まなかったのかは…正直分かりません…」
皆が困惑の表情で顔を見合わせていた。
「ですが、今の私も攻め込むのは反対です…」
「どうして…」
私は一旦一息ついて話を続けた。
「…赤ん坊だった私は人間の土地で人間に拾われて娘として育てられました」
「!?」
「そして20歳になってからしばらくして…魔族の一団に村に攻め込まれ、焼き払われました」
「な、なんと…」
「そしてその時の一団に、私が魔王の生まれ変わりだと言われました」
彼らはさらに困惑の表情を強めた。
「正直なところ、今でもイマイチピンと来ないぐらい実感はないのですが…」
「そうなのですか…」
「はい、そしてその時…私は怒りで今まで持っていた事すら気付いていなかった魔力を解放してしまったんです…」
「ま、まさか…」
「はい、その衝撃で…村に火を放って私を迎えに来た魔族の一団は…消し飛んでしまいました…」
「な、なんという事…」
「私も故郷を失い…そして私の事を頼って来た魔族の一団も…巻き添えで殺してしまったんです…」
「…」
「ですので…私は…もう…殺し合いはたくさんです…」
地下室が沈黙に包まれた。
私も彼らと同じ故郷を失った者だから気持ちはわかるのだが…
「これから衛兵が来ると思います。ですので、おとなしく捕まって…罪を償っていただけますか?」
彼らはうなだれた様子でうなずいた。
「都合のいい言葉になりますが…故郷に帰るのを…諦めないでください」
「はい…」
「…ところで、紙と封筒は有りますか?」
「はい、あそこに…」
私は紙をもらい文を書いて封筒に入れ懐に入れた。
しばらくすると、アンナが呼んだ衛兵達がやってきた。
彼らは手際よく連行していった。
その指示を出していた魔族に、パスを見せ話しかけた。
「あの、お忙しい所失礼しますが…」
「どうかしたのか?」
隊長らしき魔族の男性は不思議そうな顔をしてこちらを見ていた。
おそらくなぜこんなところに人間がいるのか?と思っていたのだろう。
「お手数ですが、これをこの街を治めている方に渡していただけますか?」
「それは構わないが…」
「あ、中身は見ないでお願いします。不信がられてもおかしくはないのですが、どうしても…」
「ああ…」
そして私とアンナはその倉庫から去った。
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衛兵長はメンバーの逮捕を終わらせて街を治める将軍の元へと向かった。
「将軍、反魔王派のメンバーの逮捕に成功しました」
「うむ、ご苦労だったな」
「あと、その現場にいた人間の女性が将軍にこの手紙を渡せと言ってました」
「ふむ、我々の街に人間がいたとは珍しいな」
将軍も滅多に人間が来ないこの土地に人間がいたことを不思議に思った。
封筒を開け中の手紙を読んでいたが、ある事に気が付くと将軍は見る見る青ざめていった。
「お、おい、この手紙を渡した女性はどうした」
「はい、すぐ旅立っていきましたよ」
「お前、気づかなかったのか?」
「え?何でしょうか?特別パスを持っていたので、行商人のようでしたが…」
衛兵長は将軍の様子に戸惑いながら答えた。
「…長いふわっとした金髪の女性だったか?」
「はい、そうですね。将軍はその女性をご存じなのですか?」
首をかしげている衛兵長に、将軍は震えながら答えた。
「お前、その方、魔王様だぞ…」
「え!?」
将軍が震えながら読んでいた手紙には、こう書かれていた。
「彼らは人間とのコネを持っています。処刑せずに捕らえたままそのコネを利用してください。魔王より」
そしてその下には、魔王であることを示す魔法の刻印が刻み込まれていた。
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