転生志願者の咆哮

@12nemu_i

第0話「仏の顔も三度まで」

 また今回も駄目だった。


 神となった男の目の前で、三度目の正直が、最悪な形で終わりを迎えようとしている。


 ピンクブロンドの大きなポニーテールの年端の行かない少女が、深夜のコインロッカーの前に立ち尽くしていた。両腕には何か抱えている。


 真夜中だというのに、紺色のブレザーに黒いコートを羽織り、短い青いチェック柄のスカートの制服姿だ。補導されかねないだろうに、少女は周囲を気にする様子も見せない。


「やめてくれ……」


 見ているだけの男は、か細い声を必死に絞り出した。

 少女にその声は届かない。

 少女の腕の中から、小さな産声が聞こえた。弱々しい、生命の誕生を知らせる赤子の鳴き声。

 それを聞いた少女は、幸せそうに笑った。

 笑って、コインロッカーの扉を開く。


 そのままロッカーの中に、腕に抱いていた小さな赤子を置いた。

 そして、扉を閉めた。

 コインロッカーに赤子を置き去りにして、少女は踵を返す。

 少女は駅を通り抜け、目的地への道のりを振り返らずに進んで行く。


 男は追いかけて「やめろ」「止まれ」と声を掛けるが、少女には何も届かない。


 辿り着いた踏み切りは、カンカンと電車が来る知らせを鳴らしていた。ゆっくりと遮断機が降りて行く。

 少女は、遮断機の前で軽く身を乗り出した。

 遠くから、電車が轟音を立てて近づいてくる。


 少女は嬉しそうに、遮断機の向こう側へと飛び込んだ。



 

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