第13話 氷の女王と、文化祭の奇跡

文化祭、当日。

俺たちのクラスの『メイド&執事喫茶』は、大盛況だった。

主な要因は、もちろん、冬花だ。

『氷の女王』の、レアなメイド姿を一目見ようと、他校の生徒まで、長蛇の列を作っている。


「……いらっしゃいませ、ご主人様」

冬花は、完璧な、ポーカーフェイスで、接客をこなしていた。

(……すげえ)

(……『塩対応』どころか、完璧な『クール系メイド』じゃねえか)

客たちは、その冷たい視線に、逆に、興奮しているようだった。

(……ドMか、あいつら)


俺は、厨房で、ひたすら、紅茶を淹れていた。

(……忙しすぎる)

執事役も、表に出ろ、と言われたが、俺は、裏方に徹した。

冬花の近くにいると、ボロが出そうで、怖かったからだ。


昼休憩。

俺は、人混みを避けて、屋上で、パンをかじっていた。

(……ふぅ。疲れた)

秋晴れの空を、見上げる。


「……ここに、いたんですね」

(……!)

振り返ると、冬花が、立っていた。

メイド服のまま、息を切らしている。

「……お前、休憩、か?」

「……はい。……悠人くんを、探してました」

「……俺?」


冬花は、俺の隣に、座った。

「……疲れました……。……人、多すぎ、です」

「……まあ、人気者、だからな、お前」

「……嬉しくない、です」

冬花は、膝を抱えて、小さく、呟いた。

「……私は、……悠人くんにだけ、見ててほしい、のに」

(……っ!)


(……不意打ち、やめろって)

俺の心臓が、大きく、跳ねた。

「……ば、バカ。……何、言ってんだ」

「……本気、です」

冬花が、俺の方を向く。

その瞳は、真剣だった。


「……あの、悠人くん」

「……ん?」

「……文化祭、終わったら、……一緒に、回りませんか?」

「……え」

「……デート、です」

(……!)

「……学校で、ですか?」

「……はい。……ダメ、ですか?」


(……学校で、デート)

(……バレたら、大騒ぎだぞ)

でも、彼女の、真っ直ぐな目を見たら、断れなかった。

「……おう。……いいぞ」

「……! やった!」

冬花が、笑顔になる。


その時だった。

ガチャリ。

屋上のドアが、開いた。


「――あーあ、やっぱり、ここにいた」

(……!)

鈴木だ。

しかも、取り巻きの男子数人を、引き連れている。


「……鈴木」

「……よお、神谷。……抜け駆けは、よくねえな」

鈴木が、ニヤニヤしながら、近づいてくる。

「……雪城さん。……みんな、お前と、写真、撮りたがってるんだけど」

「……私は、休憩中、です」

冬花が、冷たく、言い放つ。


「……つれねえな。……なぁ、神谷。……お前も、なんか言えよ」

鈴木が、俺の肩に、手を置いた。

「……ただの、クラスメイト、なんだろ?」

(……また、その言葉か)


俺の中で、何かが、切れた。

「……ただの、クラスメイトじゃ、ねえよ」

「……あ?」

俺は、鈴木の手を、振り払った。

そして、冬花の隣に立ち、彼女の手を、握った。


「……!」

冬花が、驚いた顔で、俺を見る。

鈴木たちも、目を丸くした。

「……は? 神谷、お前、何して……」


「……こいつは、俺の、大切な、家族だ」

俺は、はっきりと、言った。

「……そして、……俺の、一番、大切な、人だ」


「…………」

屋上に、沈黙が流れる。

鈴木は、ポカンと、口を開けていた。


「……家族? ……大切な、人?」

鈴木が、状況を、理解しようと、混乱している。


「……そうだ」

俺は、冬花の手を、強く、握りしめた。

「……文句、あるか?」

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