白い檻のアザレア

愛庵九郎

???

 胸の奥に、小さな穴がある。

 風が通り抜けるたび、誰かの影が花のように揺れる。


 思い出せない名前。

 触れたことのある温度。

 たしかにあった気配だけが、どこかで呼んでいる。


 忘れたのではなく、

 たぶん、置いてきたのだ。


 何を——誰を。

 その答えだけが、いつも霞の向こうで笑っている。


 今日もまた、胸の穴を風が通る。

 それが、はじまりの合図みたいに思えた。

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