第2話
「ね、悠くんはさ、好きな人には自分から告白する派?それとも待ちたい派?」
理恵が目を輝かせて問う。
(告白?待ちたい?そんなのどうでもいい!俺は今、「女子の集団行動」という名の拘束具に締め付けられているんだ!しかも、この話題はまた長引くぞ。長引くということは、香水の粒子と、甘ったるい笑い声の波状攻撃が、さらに続行ということ…!)
パニックゲージというものが存在するなら、すでに限界寸前だ。
修学旅行のあの夜の、閉塞的な匂いと熱気が脳裏にフラッシュバックする。
逃げたい、逃げたい、とにかくここから脱出して、男子トイレの冷たい空間で一息つきたい!
その時、
「悠くん、顔色悪いよ。やっぱり私たちといると疲れる?…ほら、ちょっと肩でも揉んであげるね。」
沙織の優しい手が、悠の肩に触れる。
( やめろ! その善意が、俺のトラウマを最も刺激するんだ!心配されると、拒否できない!拒否できない状況で、優しく触れられるのが一番怖いんだよ…!)
悠は無意識に、右手の指先を、制服のズボンのポケットの裏地で軽く掻いた。これは、極度の緊張状態にあるとき、彼が必ず行う男子的な癖だ。
その時、教室の隅。パンを食べていた高嶺 葵の動きがピタリと止まった。
(…ふむ。出たな、『我慢の極致、ポケット裏地掻き』。あの美貌で、あんな切羽詰まった表情と裏腹の、完全に無意識の動作。周囲の女子は「体調が悪いのね」としか見ていない。だが、あの動きは「少年漫画で、主人公が窮地に陥り、誰にも頼れず内なる決意を固める時のポーズ」と酷似している。…そして、あの指の関節の太さ)
葵は、悠の華奢な手元から、一瞬だけ垣間見えた「男」のパーツを逃さなかった。
葵は静かにパンを食べ終え、机の上の漫画雑誌を閉じた。そして、ゆっくりと席を立ち、ゴミ箱へ向かう。
(間違いない。あいつは「女」の皮を被った、「男」だ。しかも、今、あの『女子トークという名の魔窟』で、孤独な戦いを強いられている。……フッ、最高に「男のロマン」が詰まった、リアルな展開じゃねえか)
悠はパニックの中、葵がゴミ箱へ向かい、すれ違いざまにほんの一瞬だけ、自分の方へ視線を向けたのを捉えた。
その視線には、いつもの女子たちの「可愛い」や「守ってあげたい」という誤解の感情は一切含まれていなかった。
あるのは、「見抜いている」という、静かで確信めいた、そしてどこか楽しんでいるような。
言うなれば、戦友を見つけた時の視線だった。
悠の背筋に、冷たい汗が流れる。
( …なんだ、今の視線は。まるで、俺の心の内側を、すべて透視したかのような…)
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