第2話:黒歴史暴露と、ハジメテ宣言

翌朝、教室に入ると、すでにカホが待ち構えていた。

席に着く前に、ものすごい勢いで話しかけてくる。


「センパイ!ちょっと聞いてくださいよ!」


「……なんだよ、朝から元気だな」


「昨日のデートの話するたびに、コトネ先輩が“ソウヤ成長したわね”って、元カノアピールしてくるんですよ!」


「えー、それって幼稚園の時の話だろ?」


「子供だからって、何でも許されるわけじゃありません!」


「いやいや、幼稚園って“男と女”って感じでもないし……なあ?」


ソウヤはコトネに話を振ってみた。

コトネは「こっちに振るんじゃないわよ」と目で訴えてきたが、平然を装って答える。


「でも、今はカホちゃんのものだし。煮るなり焼くなり、好きにすればいいじゃない」ややトゲのある言い方だった。


「じゃあ、今まで何があったか、ここで洗いざらいぶちまけてもらいます!」


カホの宣言に、ソウヤは「めんどくせーなー」と思ったが、口に出すとろくなことにならないので黙っていた。


「コトネ先輩、ソウヤ先輩とキスとかしたんですか?」


カホの直球に、コトネはビクッと反応した。


「……まあ、幼稚園時代のことだから」


弱々しく返すコトネ。

ソウヤとコトネが通っていた幼稚園はキリスト教系で、女子の比率が異常に高かった。男子というだけで、ソウヤはやたらとモテたのだ。


「でも、キスなんて挨拶みたいなもんだったし」


口を滑らせたコトネは、しまったという顔をして、カホに思いっきり睨まれていた。


話の矛先を変えようと、コトネはソウヤに話を振る。


「ねえ、ソウヤ。幼稚園の頃、女子の比率高かったからモテたって話、してあげたら?」


「……まあ、そうだったけど。コトネとは家が隣で、毎日幼稚園バスで隣の席だったし。幼稚園の頃はコトネは内向的だったから、手をつないでバスに乗ったりしてたな」


カホへの説明のつもりだったが、コトネへの非難を避けようとした結果、かえって余計なことを口走ってしまう。


「そういえば、毎日幼稚園に行くと走ってきてハグする女子がいたよな。誰だったっけ……」


その瞬間、3人衆の一人、ユイがビクッと反応した。


「ちょっと、ソウヤくん!私を巻き込まないでよ!」


睨まれるユイ。


「センパイ、幼稚園で手つなぎ、キス、ハグ、ひととおり経験済なんて、ずいぶんマセガキだったんですね」


カホの追撃は止まらない。


「バレンタインにチョコとかもらったりもしたんですか?」


すると、3人衆のもう一人、マホが空気を読まずに口を開く。


「ソウヤくん、10個くらいもらってたよね」


言った瞬間、はっとして口をつぐむマホ。


「センパイ、モテモテだったんですね。あとは何したんですか?一緒にお風呂とか入ったことあるんですか?」


「それは……ないよね?」


ソウヤも3人衆も、もごもごと否定したが、嘘をついているのはバレバレだった。


「嘘ついても無駄です。私、一度記憶に刻んだら死ぬまで忘れませんから」


カホは腕を組み、ふんっと鼻を鳴らす。


「わかりました。私、先輩が今までやったことがない“ハジメテの彼女”になりたいです!」


相変わらず、クラス中に聞こえる大声で宣言して、くるりと背を向けて言い放つ。


「罪滅ぼしに、私を“ハジメテの彼女”にするためのコーディネートしてください!」


プリプリしながら、ざわつく教室を出ていくカホ。

まわりの視線がイタかった。


ソウヤはため息をつきながら、コトネたちの方を見た。


「……経験してないことって、何だろうな」


すると、コトネとユイが同時に言った。


「2人で考えれば?」


どちらも、ちょっとだけご機嫌斜めだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る