ようこそジャングルへ
浅川 六区(ロク)
ようこそジャングルへ(英訳:Welcome to the Jungle)
1,500文字のショート物語
「ねえ菜々美ちゃん、一番好きなギタリストって誰?」
私は朝登校すると、”おはよう”の次に、この質問を菜々美ちゃんに投げかけた。
菜々美ちゃんは少し驚いた表情をしたが、背負っていた紫色のランドセルを机の上にそっと置いた。
彼女のランドセルは、五年生まではピンク色だったが、流行りアニメの影響で、
六年生になった今年からは小学生女子の人気カラー、紫色を新調してもらったばかりだった。
菜々美ちゃんの家はお金持ちで羨ましく思う。
「好きな…ギタリスト?」菜々美ちゃんは不思議そうに私に訊き直した。
そりゃそうだよね、いきなりそんなこと言われてもすぐには答えられないよね。
音楽の道に入ったばかりなのに、そんな重めの質問をした私の方が間違いだった。ごめん菜々美ちゃん…。
「菜々美ちゃんごめん、ほいじゃあー質問を変えるね。
…もしも宇宙人がこの地球に攻めて来て、対戦しようって言うわけよ。
その時、菜々美ちゃんはこの地球上の人間の中から、対戦させる人を選ばなきゃ行けない訳だ。”地球選抜”って言うのかな。その時の、いわゆるドリームチームには誰を入れたい?って言う話よ」
菜々美ちゃんは困惑した表情で私を見つめて言う。
「夏ちゃん…宇宙人とか、地球選抜とか、そのあたりをもう少し詳しく説明して」
「あ、ごめん。ルールの説明を忘れてたわ。まずね…宇宙人がこの地球に攻めて来るのよ。それで、“ワレワレト、ショウブ、シナサイ。ワレワレガ カテバ、コノチキュウハ、イタダク”って言うわけよ。そうなると、うちら地球選抜としては絶対に負ける訳には行かないでしょ。だから…ヤツら宇宙人に対抗すべき最強のドリームチームで立ち向かう。って訳だ」
「なるほど。夏っちゃん説明が上手だから良く分かったよ。ありがとう」
「いやいや。で、そういう訳だから、地球代表のドリームチームを結成しなければならないの」
「うんうん。宇宙人と対決しなければ行けないのは分かったけど…
競技は何?野球とか相撲?まさか…ミサイルとかの兵器使用?」
「いやいや。そこは平和的に、…音楽対決だよ」
「なるほど…。音楽で対決ってことか。それいいねー。父兄や学校関係者の検閲にかけられても耐えられそうな案件だよ。暴力的だったり、R指定とかになるとさ…、
特に怪我人とかが出たりすると役所がうるさいからねー」
「そうそう。コンプラとか企業理念とかで、スポンサーもビビって逃げちゃうしね」
「うんうん。それな。最近の大人たちは、ちっさいと言うか…とにかくリスクを取らないんだよね。一体何を守ろうとしてるんだろ。そんな保身的な姿勢だと自分が成長しないよね」
「だね」
「で、好きなギタリスト…の件、なんだけど…私、よく分からないの」
「えー、そうなんだ。でも、音楽の道に進む…って言ってたよね?」
菜々美ちゃんは慌てて首を横振る。
「ううん。音楽の道に進むんじゃなくて、…運動会の鼓笛隊で、リコーダーを吹く担当になっただけだよ。みんなでアホ
「そうなんだ…。だったら、好きなギタリスとかも、大して知らないよね?
じゃあー私が地球選抜のバンドメンバーを、勝手に選んで良いよね」
「うん…。私、そんな宇宙人に立ち向かえるような、そんな地球選抜の
ドリームチームなんて選べないよ。…夏ちゃんに全部お願いするよ」
菜々美ちゃんは困ってしまい、泣きそうな顔になる。
ごめん菜々美ちゃん、私はあなたを困らせるつもりはなかったの…
本当にごめんね、でももう大丈夫。
「菜々美ちゃん大丈夫だよ。私に任せてー。うん」
「あ、夏ちゃんちょっと待って!全部任せるけど……、
でも、ギターはツェッペリンのジミー・ペイジでマストね。
あと、リードボーカルはガンズのアクセル・ローズに確定。彼はこの地球で最後のカリスマだから、そこは言わなくても分かると思うけど。
あああー、もう一人、エディ・ヴァンヘイレンも入れたいよね。もう亡くなってしまってるけど、彼の訃報が流れた時には、この地球上の全ての生物が涙を流したことは有名すぎるし…。だったら…ジェフ・ベックも招集したいかな。
ん?待てよ待てよ…そしたらクリプトンのギターから奏でる“悲しみと祈り”も宇宙人らに聴かせてやりたいしなぁ…。ああ、やっぱりダメだ。私には選べないよ」
「 …… 。」
Fin
ようこそジャングルへ 浅川 六区(ロク) @tettow
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