第36話「調教済みの彼女(?)」
「……♪」
リムジンに乗ると、なぜかシレッと
それも、肩がくっつきそうな距離に体を寄せてきていた。
反対側には風麗が座っているというか、家を出てそのまま腕を引っ張られたままだったので、未だに腕を抱きしめられている。
そのおかげで、目の前に座った雛が物言いたそうな目で俺を見ていた。
「えっと……近くないか……?」
「風麗のほうが近いですよ?」
翠玉に声をかけると、翠玉はキョトンとした顔で不思議そうに返してきた。
確かに、肩がぶつかりそうな距離でいる翠玉と、俺の腕にくっついている風麗とでは、距離感的に言えば風麗のほうが近い。
だけど、翠玉はそもそも俺にくっついてくるようなキャラじゃないだろ、という話だ。
なんせ、男嫌いで有名だった奴なんだし。
まぁそれを言ったら風麗もそうなのかもしれないが、この子は元々甘えん坊だというのは、風麗と翠玉の普段を見ていればわかる。
そういう意味で言えば、翠玉と風麗の関係性でいうと、依存をしていたのは翠玉のほうなので、俺に対してベタベタするようになったのもある意味必然なのかもしれないが――あくまでこいつは、風麗を甘やかす側だったはずだ。
姉だからそうしていただけで、本当は甘えたい欲が強いのだろうか?
それにしても、相変わらず昨日までの彼女と違いすぎて、違和感が凄いのだが……。
「風麗、もう俺を車まで連れてきたんだから、いいだろ? 放してくれ」
俺は翠玉に対して思うところがありながらも、風麗が離れないと翠玉も離れないと思い、風麗から先に離すことにした。
若干惜しいことをしている気もしなくはないが、風麗が抱き着いてきていることで――というよりも、風麗の女性らしいある一部分が俺の腕に押し当てられていることで、雛の機嫌が悪くなっていそうだし、これは仕方がないことだった。
「んっ……」
俺を車に連れて行くという目的を達していた風麗は、コクッと頷くと俺の腕から手を放す。
しかし――なぜか、俺の肩に頭を乗せてきた。
「おい……!?」
「寝る……」
どうやら風麗は、俺の肩を枕代わりにして寝るつもりらしい。
――いや、ちょっと待て。
「寝るな、すぐ学校に着くだろ……!」
徒歩で十五分の距離なのだ。
車で行った場合あっという間に着くのだから、寝られると困る。
というか、もうそうこう言っている間に学校は目の前だ。
「…………」
そして、風麗が羨ましかったのか、翠玉は甘えたそうな顔で俺と風麗を交互に見ると、そのまま何も言わずに俺の肩に頭を乗せてきた。
思いもよらない形で、天上院姉妹に完全に挟まれてしまう。
両手に花?
見る者によっては、そう思うかもしれない。
なんせ彼女たちは、浮世離れしているほどに容姿が優れているのだから。
だけど――学校での彼女たちしか知らない奴らが見たら、危険動物二匹に挟まれているようなものだ。
なんなら俺は、翠玉が態度を改めた今でさえ、刺されないか若干警戒しているくらいだし。
「むぅ……」
その上、目の前ではかわいい妹が拗ねて頬を膨らませている。
兄を取られていることで、ヤキモチを焼いているのだろう。
かわいいのだけど、ここで雛まで拗ねてしまうと、俺の手に負えないのだが……。
「二人とも、もう学校着くから離れてくれ……」
妹の物言いたげな視線に晒される俺は、苦笑いを浮かべながら二人に頼む。
学校には、翠玉と風麗の到着を待つお付きたちが大勢集まっているだろう。
そんなところに今の俺たちが顔を出せば、大騒ぎ待ったなしだ。
特に翠玉が俺にベタベタとか、今までなら絶対にありえないことなのだし。
薬を使ったとでも疑われかねない。
……いや、まぁある意味薬のせいなんだが……。
「仕方ありませんね……」
俺に怒られるのが嫌なのか、意外にも翠玉はあっさりと離れてくれる。
逆に、風麗は――『すぅ……すぅ……』とかわいらしい寝息を立てていた。
「嘘だろ、まじで寝たのか……!?」
「風麗は、英斗君にそのまま教室に連れて行って頂くつもりですね」
「俺は便利な運び屋じゃないぞ!?」
この子はいったい何を考えているんだ!?
「普段は学校が近くなれば起きるのですが、英斗君の猫と遊びために早起きをしていたようなので……。それに、英斗君のお力なら、自分を軽く持ち上げることができるとわかっておりますし……」
一瞬冗談で翠玉は言ったのかとも思ったが、説明を聞く限り本気で言っていたようだ。
要は、みゃーさんのせいで慣れない早起きをし、そのまま遊んでいたことで十分な睡眠を取れず、今寝てしまったということか。
そういえば、俺がリビングに顔を出した時も、ベッドに横になりながら眠たそうにはしていたもんな……。
自分が学校では絶対的な権力者であることや、俺なら問題なく運べるという状況、そして許嫁として打ち明けることや、その際騒ぎになっても自分は寝ておけば俺や翠玉が説明してくれる、という計算まであるのかもしれない。
とりあえず、やっぱりこの子も自由人だ。
しかもいろいろとわかった上でやっているから、タチが悪い。
「叩き起こすか……」
「その……英斗君を信用なされてのことなので……さすがに可哀想ですし……」
俺が風麗の頬に手を伸ばして
確かに自身の体を俺に預けるというのは、信用しているからこそなのだろう。
そうでなければ、寝ている間に体にいたずらをされる可能性だってあるのだし、男に自身の体を触らせるようなことはしない。
だが――信用していると言えば、なんでも許してもらえると思うなよ……?
――と思ったが、風麗は軽くて負担というほどのことはないし、一応この子には手を貸してもらった借りがあるようなものなので、おとなしく運ぶことにした。
というよりも、今晩彼女と一緒に寝ないといけないわけで、ここで何か反感を買おうものなら、寝ている間に仕返しをされる気がしたので、下手に起こすことはやめたのだ。
「まぁ、いいや……とりあえず、もう学校に着くけど、わかっているよな?」
「えぇ、お任せください。頑張って、今まで通りを演じますから」
思考を切り替えてこれからのことに話を変えると、翠玉は自身の胸に手を添えながら、笑顔で頷いた。
家の時はあまり自信がなさげだったが、学校が目前になったことで普段の雰囲気を取り戻せたのかもしれない。
ただ――頑張るほどのことなのか……?
という疑問はあったが。
その後、どうなったかというと――案の定、翠玉たちの車から寝ている風麗をお姫様抱っこする俺が降りると、騒ぎになった。
しかし、翠玉は
当然、騒ぐなと言われても学校はざわついていたし、なんならお付きたちはとても混乱していたようだが、翠玉や俺たちに直接聞いてこようとする者はいなかった。
その様子を見ていて、感心した俺は――
「へぇ、やるじゃないか」
――と、翠玉に耳打ちをしたのだが……。
「――っ。は、はい……♡」
俺に褒められた翠玉の態度が一変してしまい――顔を赤く染めながら自身の体を両手で抱きしめ、身震いをする彼女を見た生徒たちは、とても驚愕することになった。
なんなら――
「えっ、あれ調教されてね……?」
「昨日学校でバトッてたし、あの後わからされたのか……!?」
――という声が各所から聞こえてきたのだった。
うん……やらかしてしまった……。
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