第35話「逃げ場のない状況」
「んっ……もう……」
「もう?」
「――っ!?」
気付かれているようなので彼女が呟いた言葉に反応すると、なぜか白雪さんはビクッと固まってしまった。
声をかけた瞬間、何かを一瞬にして布団の中に隠したようだが、彼女の胸元から腰ほどの布団が不自然に膨れて上がっている。
いったい何を隠したのだろうか?
「え、英斗様……!? いつからそちらに……!?」
数秒おいて再始動した白雪さんは、信じられないものでも見るかのように目を見開きながら俺のほうを見上げてくる。
「あれ? 俺の名前を呼んでたから気付いているのかと思ったんだけど……。財布を忘れたから、部屋に取りに戻ってきたんだよ」
「そ、そうですか。もちろん、足音で気が付いておりましたよ?」
白雪さんはなぜか顔を真っ赤にし、汗をかきながらニヤッと笑みを浮かべる。
うん、何を動揺しているんだ?
それに、気が付いていたのなら、俺がいることに驚いていたことがおかしいんだけど?
――と疑問に思ったけど、ふとある考えが頭を過る。
昨晩、彼女は一睡もできず撮影を続けていたのだ。
年齢は俺と変わらず、態度もクールで大人びているところはあるけれど、見た目は幼めなので、もしかしたら熱を出してしまったのかもしれない。
ましてや、馴染みのない
「大丈夫か?」
急に白雪さんのことが心配になってきた俺は、布団から出てこようとしない白雪さんの頭に手を伸ばす。
「あっ……ま、待って――いま、触られたら……!」
なぜか白雪さんは慌てるが、俺は気にせず彼女のおでこに触れた。
熱は……あるかもしれない。
顔が真っ赤になっているほどだし、体温が高まっているのだろう。
ただ……それよりも気になったのは、俺が触れる時、白雪さんがギュッと目を瞑ったことだ。
今も目を閉じ続けていて、プルプルと震えている。
「そんな怯えなくても、叩いたりなんてしないって」
もしかしたら叩かれたことがあるから、手を頭に伸ばされて身構えるように目を閉じたのかもしれない、と思った俺は、なだめるように優しく頭を撫でる。
すると――
「だ、だめ……! んんっ……!!」
――白雪さんの体が、なぜか大きく跳ねた。
「えっ……?」
一瞬何が起きたのかわからなかった俺は、思わず固まってしまう。
「にゃ、にゃんでもありません……」
白雪さんは息を切らせながら、潤った瞳で俺が何かを言う前にそう言ってきた。
だけど、普段キリッとしている彼女の顔が、今は若干だらしなく緩んでいた。
「いや、でも……」
「なんでも、ないのです……。気にしないでください……。あと、触れないでください……」
まだ俺が手を置いているからか、嫌がられてしまったようだ。
確かに幼く見えるとはいえ、気軽に女の子の頭を撫でたのは良くなかった。
ただ、それにしても……なんだ、さっきの反応は……?
「学校……遅れますよ……? 早く行ってください……」
未だに固まっている俺に対し、どこか辛そうにしながら白雪さんは学校に行けと促してくる。
しんどそうに見えるが……。
「体調が悪いんじゃないのか……?」
「違います……。これは、その……寝れば、治るものなので……」
「寝れば治るって……一人で心細かったら、俺も学校を休むけど……?」
「やめてください、これ以上私を追い込むのは……」
「えっ?」
追い込む?
別に、追い込んでないよな……?
と、疑問を抱いていると、白雪さんがハッとした表情を浮かべる。
「い、今の翠玉様は……英斗様が傍におられないと、ヤキモチを焼かれます。私が面倒な目に遭わされるので、早く行ってください……」
「あぁ、それは確かに……。でも、俺が言ったら今の翠玉は聞いてくれそうな気がするけど……」
それこそ、白雪さんに何かしたら許さない、とでも言っておけば、翠玉は何もしなさそうなほどに、今は従順だ。
「いいですから、早く行ってください……!」
俺も残ったほうがいいんじゃないか、と思って話していると、突然白雪さんがイラつき始める。
まるで、俺にいてほしくないとでも言わんばかりに。
布団の中でモゾモゾとしているけど、やっぱりしんどいんじゃないのか……?
そう思っていると――
「英斗……いい加減、早くして……」
――雛でも翠玉でもなく、風麗が俺を呼びに来た。
「どうして風麗が……?」
めんどくさがり屋の彼女が来たことに、俺は驚きを隠せない。
絶対この子なら、翠玉ではなくとも雛、もしくは運転手だったりメイドさんだったりを寄こしそうなのに。
そして、風麗が現れるなり、布団で寝ている白雪さんは気まずそうに、頭まで布団の中に潜ってしまった。
逃げたというか、隠れたな……?
「別に……私が来たほうが、いいと思った……だけ……。早く……」
「ちょっ、引っ張るなよ……!? 白雪さんの体調がおかしいかもしれないんだ……!」
「英斗の勘違い……。あの子は、大丈夫……」
「いや、何を根拠に……!?」
「英斗のせいだから、君がいるほうが良くない……」
俺は反論するものの、珍しく風麗は強引に俺の腕を引っ張り続け、車に連行していくのだった。
なお、力自体はとても弱く、これでポチをどうやって倒したのか、本当に不思議でしかないんだが。
後、俺の腕に当たるというか、腕を挟んでいる大きな物体がとても柔らかかった。
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