第30話「ゆ、ゆりゅしてくだしゃい……」
「そこまでするか……!?」
予想外すぎる行動に、つい俺は驚きの声を出してしまう。
もしかしたら、俺が真莉愛さんにしたことを見よう見まねでしているのかもしれないが、それにしてもあのプライドの高い
「あなたにとっても、悪い話ではないはず……。あなただって、好きな子と結ばれたいでしょ……? 私と結婚をすれば、それは叶うわよ……?」
翠玉は縋るような目で、俺の顔を見上げてくる。
彼女が言っているのはおそらく、自分を選べば関係は形だけのものになり、愛人を作ることを認めるということなのだろう。
感情だけで行動しているのかと思ったが、意外と理に適ったことを言ってきている。
翠玉か風麗を選ぶしか選択肢がなくなった俺に対して、場合によっては翠玉の提案は魅力的に映っただろう。
ただ――俺、好きな子っていないんだよなぁ……。
雛とは血の繋がりがあるので、結婚ができないし。
いや、そういう意味では……翠玉を選べば合法的に雛と……?
――うん、無理だ。
雛にはちゃんと一般的な家庭を築いて幸せになってもらいたいし、もし俺が翠玉と偽装結婚で雛を家に連れ込んだら、真莉愛さんが即行気付いてブチギレる気がする。
まぁ、雛が選ぶ男は、俺よりも優れている奴以外は認める気がないが……!
「氷がいいなら、好きにすればいいわ。あの子もまんざらではなさそうだし、私は何も言わないから……」
俺が黙って考え込んでいると、何を勘違いしたのか翠玉は白雪さんのことを持ち出してきた。
「いや、あの子は妹のように見えているだけなんだが……。向こうだって、急に俺が主の許嫁になったから、距離感を掴みかねているだけだろうし」
直接的な主ではないにしろ、主の相方になるような相手であれば文句も言えなくなる。
ましてや昼は闘った仲でもあるのだし、そんな男とはすぐに距離感が掴めなくて、少し変な態度を取っているだけだろう。
そう思ったのだが――
「お母様って、鈍感系が好みだったかしら……?」
――何やら翠玉が本気で戸惑っていた。
ボソッと独り言を呟いていたので聞き取れなかったが、何か言いたげな顔だ。
「今更だし、言いたいことがあれば言えよ?」
俺に取り入りたいから気を遣っているのかもしれないが、今まで散々好き放題言われてきたのだから、今更気を遣われるほうが気になる。
というか、悪口を言われたのなら普通に言い返したかった。
「いえ、別になんでもないわ……。 私はただ、
絶対何か言いたいことがあるはずなのに、翠玉は口にしようとしなかった。
まぁ彼女からすれば、俺から『翠玉を選ぶ』と言わせれば済むだけの話なので、早く言質を取りたいんだろうが……。
わざわざ彼女が交渉に出ているのも、このままでは絶対に自分が選ばれないとわかっているからだろう。
というか、わからないほうがおかしい。
俺の大切な雛に手を出して、その後もいろいろと嫌がらせをしてきた奴と、敵サイドにいても翠玉目線では何もしておらず、おとなしくしていた風麗。
その上学校での印象も、風麗のほうが圧倒的にいいのだから――俺が選ぶのは、風麗に決まっていた。
ましてや、翠玉は気が付いていないだろうが、風麗は翠玉サイドにいてもなお、裏では俺や雛のために手を回してくれていたんだしな。
「はっきり言うけど、その条件は呑めないな」
「……好きな子と結ばれなくてもいいの……?」
断れば感情的になるかと思ったが、一応彼女にとって想定の範囲内だったのかもしれない。
翠玉は意外と冷静な態度で、俺を見つめてきた。
「普通に考えてみろ、多分この状況まで真莉愛さんはお見通しだぞ?」
と、俺は言いながら、足音を殺してドアへと近付く。
そして、ドアを勢いよく開けると――
「きゃっ!?」
――ドアに耳を当てていたらしき白雪さんが、ドアが開いたことで部屋に倒れこみそうになった。
それでも、一瞬にして体勢を立て直すさすがの白雪さんだが、そんな彼女を翠玉は驚きながら見つめる。
「主の会話を盗み聞きしていたの……!?」
「……真莉愛様のご命令です……。翠玉様は交渉しようとなされるでしょうから、包み隠さず報告するようにと……」
白雪さんは下手に言い訳をせず、すんなり事情を打ち明けた。
そうなんだよなぁ。
あの
正直土下座をしてきたのは驚いたが、俺ですら、真莉愛さんが傍を離れた以上翠玉が交渉をしないほうが、むしろおかしいと思うし。
「未遂ってことで、見逃してくれないか?」
また翠玉の顔色が青ざめたので、俺は苦笑しながら白雪さんにお願いしてみる。
「お二人がこのままおとなしく寝てくださるのであれば、私も報告は致しません。何を話していたか詳しく聞かれてしまった場合、私にとっても都合の悪い話はありましたし……」
そう言って、また若干頬を赤らめてソッポを向く白雪さん。
うん、なぜそこで顔を赤らめる?
と思うが、ツッコむと怒られそうな気がしたのでやめておいた。
「まぁ、明日も学校なんだし、早く寝たほうがいい」
翠玉と一緒に寝るだなんて、危機感によりなかなか寝付けないだろうし、早くベッドに入るに越したことはないのだから。
ちなみに、いつもは一緒に寝ることが多いみゃーさんは風麗が捕まえているらしく、現在彼女の部屋のようだ。
まぁ、みゃーさんが嫌がってないのならそれでいい。
「い、一緒のベッドだからって、触らないでよ……?」
みゃーさんのことを考えながらベッドに入ると、意外にも翠玉はすんなりと入ってきた。
緊張しているようだが、普段に比べて言葉が柔らかめなのは、俺の印象を悪くしないように頑張っているらしい。
本当に、風麗を俺に取られるのは嫌なんだろうな……。
風麗は許嫁というのを受け入れているようなので、翠玉が妹を取られるかもと危機感を抱くのも、わからなくはないが……。
とりあえず、事故でも触れたらキレそうなので、俺は万が一が無いように彼女に背中を向けて目を閉じる。
おそらく彼女も、俺と同じくこちらに背を向けているだろう。
そんな俺たちを黙って見届けた後、白雪さんも床に布団を引いたようだ。
「白雪さんがベッド使わないか……? 布団を敷いているとはいえ、床で寝させることには抵抗あるんだが……」
「理由をお付けになって、翠玉様と別々に寝ようとなさるのは、やめておいたほうがよろしいですよ? 報告対象になってしまいますので」
「いや、別にそんなつもりはないが……」
今のは単純に、自分がベッドを使って、女の子が床に布団を敷いて寝るというのが受け入れづらかっただけだ。
「ふふ、お気になさらないでください。最高級の布団を持ち込んでいますので、苦にはなりません」
冗談だったようで、白雪さんは楽しそうに笑い声を零した。
従者ではあるけど、一般家庭に比べたら彼女の家も遥かにお金持ちなんだろうなぁ……。
「私を挟んでいちゃつくなんて、当てつけでしょ……。あと、私が寝ているこれよりも、いいもので寝てるじゃない……」
「翠玉、ボソボソとうるさい」
「くっ……! 明日、絶対最高級のベッドに変えてやるんだから……! 風麗が寝るなら、余計によ……!」
うるさくて寝られないだろ、という意味を込めて注意すると、なんだか翠玉は悔しそうな声を出した。
女王様のメッキが剥がれて以降、正直かなり扱いやすい奴になったというか、いっそ面白ささえ感じるかもしれない。
まぁでも、俺が翠玉を選ぶことはないんだが。
そうして、俺は目を閉じ続け――気が付いたら、意識を失っていた。
そして、朝になって目を覚ますと――
「も、もう、ゆりゅしてくだしゃい……。これいじょうは、ほんとにむりぃ……」
――なぜか、だらしない表情で顔を真っ赤にし、服が完全にはだけてしまっている涙目の翠玉が、心ここにあらず状態になっているのだった。
「……は?」
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