明日

三隈

明日

夜、彼女からメッセージがあった。

「なんか体調悪いかも。明日の朝まで待って」

明日は二人で出かける予定だった。

「大丈夫?」

「かどうかを明日の朝をもって判断したいと」

「了解、無理しないでね」「今からなんか持っていこうか?プリンとかポカリとか、

と打ちかけて、既に日も暮れていい時間であることを思い出し消去した。風邪と決まった訳でもないし、季節もあり外は氷点下で、ここから自転車で30分と考えると少々骨が折れるとも思った。

そう思案していると彼女から一枚の画像が送られてきた。体温計を写した写真で、液晶には37.2℃とあった。

「アウトだね」

「私平熱高いもん」

「そういうレベルでは」

明日の予定はキャンセルかと考えていると、スマートフォンの震えと共に画像が送られてきた。傷だらけの木製テーブルの上にプリンとポカリが置いてある写真だった。

もうあったのかと思った。

「もうあったの」

「もうってなに」

「それ食べたら寝なよ。明日はゆっくり休んで」

「んいー」

謎言語で一言だけ返ってきたが、あえて返事は送らないでおいた。


しばらくロードショーを見ているとスマホが震えた。

彼女からだった。

「薬飲むから大丈夫だよ」

メッセージと一緒に画像が送られてきた。見たことのない上下赤と青の山盛りのカプセルと、パックのグレープフルーツジュースの写真だった。

あまりこのようなふざけ方はしない人だったので驚いた。

「グレープフルーツジュースで薬飲んじゃだめだよ」

「そこかよ」

不満そうな顔をした猫のスタンプが送られてきた。

「ちゃんとした薬はあるの?」

「あるけど」

「じゃあそれ飲んで今日はもう寝て」

「はい」「君は今何しているの?」

「家で漫画読んでるけど」

「一人で?」

「あんまり誰かとは読まないのでは」

「かもね」

返事は返さなかった。


映画がクライマックスに差し掛かる頃、また画像が一枚送られてきた。

ひらくと血のようなものと白い破片に塗れた彼女の手があった。真っ赤な液体は部屋のカーペットにまで広がっており、吐血だとしたらかなりの量だった。白い破片は拡大すると歯だった。

状況を理解できないでいると手の中でスマホが震えた。

「嘘だよ」


返信に困っていると彼女からビデオ通話の着信があった。急いでサンダルをつっかけ外に出る。映る画面を見ると彼女はどこかの暗い橋の上にいて、周りは雪が降っているようだった。

自分の周囲を見渡したが、降る雪は見当たらなかった。

『ちょっと待ってそれ今どこにいるの?』

『ここ、一緒に渡ったよね』

『渡ってないよ』

全く見覚えのない橋だった。何より、彼女と一緒に橋を渡った記憶はなかった。

混乱する僕を置いて、彼女はざくざくと橋の中ほどまで進む。そのまま画面は欄干の外を写した。橋の下は真暗闇で、どれほどの高さかもわからなかった。

『なら今度は一緒に渡ってくれる?』

僕は返事が出来なかった。

ふっと画面が闇に浮遊する。

風を切る音が聞こえる。


じゃあ、明日ね。

彼女の声がした。

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明日 三隈 @iiyudane

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