第22話 陰キャ、武の女王に目をつけられる ーグッパイ俺の青春ー
優雅な昼時、こじんまりとした空き教室。最高の好条件――ただひとつを除けば。
俺の視線は隣にいる不知火先輩と浅葱に向く。2人は何事もないように弁当を食べている。
なんで、このふたりはさも当然のように居座ってるんですかね?
「あの、ここ俺のマイホームなんですけど」
「マイホーム、って……ここはみんなが使う場所だよ?」
不知火先輩が困惑気味に答える。
「そうだよ。そんな寂しいこと言わないでさ! 楽しくやろうよ!」
浅葱が明るく言う。
「なんだその理屈は。楽しむってなら俺は1人孤独孤高に生きたいんだ」
俺がそう言うと、不知火先輩と浅葱は苦笑していた。
なんだその顔は、まるで俺が異端者みたいな顔じゃないか!?
そんなことを思っていると、不知火先輩が何かを思い出したかのように口を開く。
「それより、昨日はとても楽しそうだったね。高一くん?」
その瞬間、俺の脳裏には瀬良先輩とのバニーガール事件が過ぎる。
机の上で押し倒され、唇が触れそうになったあの瞬間――。
俺は思わず食べていたおかずを喉に詰まらせそうになった。
「げほっ、げほっ!」
「だ、大丈夫?」
浅葱が心配そうに背中を叩いてくれる。
「あ、あれは仕方ないていうか……なんていうか」
俺がゴモゴモと言い訳を探していると、浅葱がその話題に食いついてきた。
「え? なにそれ、私知らない。なにがあったの?」
「何もなかったよ!」
即答だった。俺は即答で浅葱の問いかけを防いだ。
――だが、不知火先輩がそれを許さなかった。
「えっとね、実は――」
「不知火先輩! 今日なにか奢るんで!」
俺は慌てて不知火先輩の言葉を遮る。
「なんでもないよ!」
不知火先輩はニヤリと笑いながら口を閉ざした。
……あ、これ完全に握られてるわ。俺の弱み、がっつり握られてるわ。
「ふーん、まぁいいけど。気になるなぁ」
浅葱が不満そうに頬を膨らませる。
その顔が可愛くて、思わず目を逸らした。
「じゃあ、高一くん。放課後ね」
「へ?」
「約束したでしょ? なんでも奢るって」
不知火先輩が満面の笑みで言う。
……完全に罠だった。
そんな会話をしながらも、俺たちは昼食を終えた。
※ ※ ※
放課後。
一人で帰宅しようとした時、周りのクラスメイトたちが教室の扉を凝視しているのに気づいた。
嫌な予感が俺の中を走る。
そして、俺の予感が的中するように――そこに立っていたのは、不知火先輩だった。
「不知火先輩だ……」
「な、なんでここに……」
「か、可愛い!」
周りの男どもが言葉を並べる中で、俺はそそくさと不知火先輩がいる扉とは逆の方向――窓側から出ようとした。
いや待て、ここ2階だぞ。どうやって出るんだ俺。
「どこに行くんだい? 高一くん?」
自信に満ちた声で呼び止められた。
俺は渋々苦笑いを浮かべて振り向いた。不知火先輩は不敵な笑みを浮かべている。
その笑顔が、悪魔のように見えた。
「一緒に帰ろうじゃないか! 高一くん」
その瞬間、周りからの視線――いや殺気がダダ漏れになった。
な、なんでいつも俺はこんな役目になるんですかね?
背中に突き刺さる無数の視線。これ、マジで呪い殺されるんじゃないか?
「あはは……それじゃあ、お言葉に甘えて……」
そんな疑問を心の中に抱きながらも、俺は不知火先輩に半ば無理やり連行された。
教室を出る直前、チラリと後ろを振り返る。
そこには――地獄のような光景が広がっていた。
「あいつ……」
「許せねぇ……」
「不知火先輩と一緒に帰るとか……」
グッバイ俺のぼっち生活……。
そしてグッバイ俺の平穏な日々……。
※ ※ ※
不知火先輩と二人で廊下を歩く。
周りの視線が痛い。特に男子からの視線が殺意レベルで痛い。
「先輩、なんで俺を指名したんですか……」
「え? 約束したじゃん、なんでも奢るって」
「それはそうですけど……」
「それに」
不知火先輩は少し声のトーンを落とした。
「高一くんと、ちゃんと話したかったから」
「話……ですか?」
「うん。昨日のこととか、色々ね」
不知火先輩は意味深に笑った。
……あ、これヤバいやつだ。
「先輩、その話は――」
「安心して。からかうだけだから」
「それ全然安心できないんですけど!」
俺のツッコミに、不知火先輩はクスクスと笑った。
「高一くんって、本当に面白いね」
「面白くないです。必死なんです」
「そういうところが面白いんだよ」
不知火先輩はそう言って、俺の肩を軽く叩いた。
その感触が妙に温かくて、俺は少しだけ顔が熱くなった。
「じゃあ、どこ行く? ファミレス? カフェ?」
「……先輩の好きなところでいいですよ」
「じゃあ、決まり!」
不知火先輩は嬉しそうに笑った。
その笑顔を見て、俺は思った。
……まあ、悪くないかもな。
こうして、俺の予想外の放課後が始まった。
ぼっち生活は完全に終わったけど――それはそれで、悪くないのかもしれない。
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