第15話 火曜日といじめっ子
「テメェら...ふざけんなよ...」
「は?なに?何て言った?」
頭の中にある何かがプツンと切れたような気がした。そもそも、これは俺の問題なんだ。この4人には、関係ないんだ。小声でぶつぶつと言った俺に、いじめっ子は鋭く聞き返す。
「ふざけんじゃねぇよ!!!!」
一瞬だけ時が、止まったような気がした。叫んだ俺に、誰も動かない。心の中にある天気が、雷雨へと移り変わる。
「はぁ...」
俺は前髪を右手で後ろに上げる。かけられた水によって、前髪は後ろに固まり、額が剝き出しになる。決めたんだ。何があっても次は守るって。拳を握りしめて、いじめっ子に向かって、一歩ずつ近づく。
「え...たつーさ...」
「たっくんさ...」
「...たっつ」
「アンタさ...」
「え...何?」
「なんか...」
突然4人に呼ばれた俺は足を止め、顔を向ける。真顔で見つめる4人に向かって、見つめ返す。そして...
「「「「かっこいい...?」」」」
「は?」
戸惑いながら『かっこいい』と言った4人に、俺は一瞬思考が停止する。さっきまでの怒りがどこかに消えた。かっこいいって...?
「なんか新鮮だね、たつー」
「えっ...?」
「確かに!」
「いや、別に変わらないだろ...俺前髪短いし...」
「いや長いよ」
「いや長くな...」
「長い」
「...」
俺、今さっき何をしようとしてたんだっけ...?気づくと握っていた拳は緩んでおり、歩く前までの位置に戻っていた。頭が痛い...。嫌な予感がする。
「自惚れんじゃねぇよテメェ!!」
「っ...!」
突然、目の前にやってきた拳は空気を切り裂き、俺の顔に近づいてくる。俺は、咄嗟に身を屈め、拳を避ける。その拳は空振りに終わり、戻っていく。一瞬の出来事に、俺はそのままにするなんて...
「ふざけっ...!」
拳を振り上げて、いじめっ子の顔面に向かって俺は、拳を振り下げようとしたその瞬間だった。
「ダメよ」
「桃瀬っ...」
詩織が俺の腕を掴み、俺はハッと我に返る。そして、ゆっくりと腕を下ろす。こんなのになったら、ただの蹴落とし合いだ。俺はあの瞬間に...。
「ちゃんと大人の対応しなさい」
詩織の小声に俺は応えるために目を閉じ、思考を巡らせる。そして...目を開ける。
「他人を貶すくらいだったら...
俺は捨て台詞を言った後、鞄を持って背中を向けてから、その場から去る。そして、同じように後ろから4人がついてくる。
「ふー大変だったね」
「...あれがたっつのいじめっ子?」
「あ...まぁ...」
「あの人達ひどいね...」
「ほんと、アンタ止めて良かった」
「お...あ、ありがとう」
「たっくんさっきから口押さえてない?大丈夫?」
「すまん...耳塞いであっち向いててほしい...」
俺はさっき収まったばかりだった、胃から上がってきた何かに限界を感じていた。
「え、わかった」
俺は急いで鞄を漁って、入れたままだったレジ袋を取り出す。そしてそのレジ袋を開けて、口を包み込み...
「うっ...オエ゛エ゛エ゛エ゛ッ!!」
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