変な霊たちに憑りつかれて、悪霊退治することになりました。

ぼんばいうぇ

第一章

第1話 幽霊に憑りつかれるってマジ?

「おいダメ山!今日の夜、わかってるよなあ?」


 学校の授業が終わり、すぐに下校しようとリュックに荷物を片付けていた時、制服を崩し、耳に大きなピアスをつけ、髪を茶髪に染め上げた、一目見れば不良と分かる5人の少年たちが、僕の肩を掴んでくる。


 こいつらは僕が高校に入学して以降、しょっちゅう絡んできてはパシリや無理難題を指示していじめてくる、典型的ないじめグループだった。

 

 こいつらのせいでダメ山なんていうあだ名をつけられた。霊山大志レイヤマタイシって名前がちゃんとあるのに。


 他の生徒はみんなこちらを見ないようにして教室から去っていく。誰も助けてはくれない。


「わ、わかってますよ。街の林に行ってそこにある神社を見てこいってことですよね」


 僕は肩をびくつかせながら答える。ほんとは嫌だけど歯向かったらすぐこいつら手を出してくるんだよな。 


 僕みたいなヒョロガリじゃ、一瞬で蚊みたいに潰されてしまうので、黙って従うしかない。


 現に前、先生に告げ口したら一瞬でバレて、ぼこぼこにされた。一週間は動けなかった。


 先生も面倒事は嫌だと言って突っぱねられたし。


 リーダー格の大柄でいかにも力に自信がありますみたいな、ゴリラ顔の不良がニヤついた。


「それだけじゃねえよ、ちゃんと行ったかどうか、写真撮ってこいっていってんだよ。 ほんとにわかってねえなあ、ダメ山はよお!」

「ぐっ...」


 お腹に鈍痛が走る。殴られた。


 毎度のことのように殴られてるから痛みに慣れてはきたけど、それでもやっぱり痛い。


 僕はまたか、という思いを嚙み潰しながら、ずれた眼鏡をかけなおし、脂汗をハンカチで拭きながら機械のように首を縦に振った。

 

 その様子を見てリーダーの少年は満足したように鼻を鳴らした。


「じゃ、今日の夜忘れんなよ? もし送ってこなかったら、今度はまじでボコボコしてやるからな、ヒヒヒ」


 不良たちが去ったことを確認すると、僕は学校から飛び出していく。あんな場所一秒たりともいたくない。


 ぼろいアパートについた僕は階段を上って、ドアに鍵を差し込んで回す。


「ただいま...誰もいないけどね」


 ソファにリュックをぶん投げて、自室のベットに飛び込む。

 半開きになったクローゼットには着ていない服が乱雑に投げられており、傍らには埃が被り、弦が切れたアコースティックギターが置いてある。

 ひとしきり悪態をついた後で時計を見てアルバイトの時間が近いことに気づく。


 鏡の前に立って、自分の姿をまじまじと見つめた。

 黒ぶちの丸眼鏡に、雑に切った短髪と芋っぽさのある、ブスッとした顔。男子の中では平均的な身長と痩せて、なよっとした身体。ああ、見るもんじゃないな。


 すぐに制服から服に着替えると、バイト用の手提げかばんを持って玄関に向かう。


「いってきます」


 写真立てに映る母と父に向けて僕は言う。二人とも海外で滅多に帰ってこないけど、今のみっともない僕を見られるくらいならそのほうがいい。


-----


「んで、ここがあのクソゴリラの言ってたところか。 薄気味悪いよ...」


 コンビニのアルバイトを終わらせて、現在時刻は午後11時30分。街の中心部から外れた林の前に僕は立っている。

 

 手に持った携帯からは、さっきまで聞いていたラジオの音声が漏れていた。内容は、最近話題になっている不審死や行方不明の事件が増えていることについてだった。


 林は街の管理区みたいな場所で、人の出入りはあまりない。昼間でも結構暗いのに、真夜中になってその暗さはさらに増していた。携帯フル充電しててよかった。


 目標はこの真っ暗な林を突き進んだ先にある、神社を写真に納めること。今のうちに時間をスクショしておこう。面倒な言いがかりは付けられたくない。


「よし、こええけど。リンチされるよりはマシだし」


 僕は真っ暗な林に足を踏み入れる。


 携帯のライトを頼りに、一歩ずつ前へ。葉っぱが擦れてむず痒い。


 なんか口に入った、うえ。なんでこんなに手入れされてないんだよ、ここ。止めとくべきだったかな、いやだなあほんとに。


 そうぼやきながら全身を葉っぱまみれにさせながら進んでいた時だった。


「え......?」


 辺りが一変した。


 足元に感じたことのない冷気が触れる。さっきまで鬱陶しいほどに当たってきた草の感触がなくなった。


 後ろを振り返ると濃密な霧が退路を塞いでいる。今まで歩いてきた林が嘘のようだ。


 目の前には林のなかとは思えないような、ぽかりと空いた空間があり、石碑のようなものが月明かりに照らされながら中央に鎮座している。神社と聞いていたのに妙だ。


 とりあえず写真を撮っておくかと携帯を付けようとするが、電源が入らない。気づけばライトも消えている。振ったり電源ボタンを長押ししてもうんともすんとも言わない。


「ええ? 満タンだったよな、充電。 写真取れないのはまずいって...」


 動かぬ携帯を眺めて、焦りで汗を流し始めた時だった。


「____っ!?」


 目の前に若い男が立っていた。さっきまで誰も目の前にいなかったのに。音もせずいきなり。


 男は異常なほどに青白く、死人のようで、昔のお侍のような恰好をしている。コスプレと違うのは足が無いことと、男から冷気が感じられること。


「あ、あああ、ああああ」


 幽霊。まさか本当に出るなんて。

 肝試しって聞いてたけどマジで出て来るなんて。しかも侍の霊だし。紺色のボロボロで着古した袴と腰に傷だらけの刀を佩いているし。


 侍は僕をじっと観察するように、心の奥底を見透かすように見ている。僕は金縛りにあったみたいに動けず、時間が経つのを待つしかなかった。

 しばらくして侍が口を開いた。


「お主、拙者が見えるのか?実に面白いでござるな」

「は?」


 今なんて言ったんだこの幽霊。なんか笑ってるし怖いんだけど。

 侍は続けて言った。


「お主の身体にしばらく住まわせてもらうでござるよ。 拙者の目的のためにね」

「は?」


 次の瞬間、侍の霊が俺の身体に入り込んでくる。


「ぐああああああ!?」


 眩暈がする。頭の奥で鐘を激しく鳴らしているような頭痛と腹痛が響いて、僕は地面に倒れこんだ。


 薄れゆく意識の下で、さっきの侍と別の聞いたことのない人の話し声が聞こえてくる。言い争いをしているみたい...だ。


 僕、死ぬのかな。真夜中の不気味な林の中で。ラジオの言ってた事件って幽霊のせいだったりして。あながち間違いじゃなかったりして。


 そんな現実逃避をして、僕は意識を失った。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る