第6話 疑惑の光景

「市庁舎に行ってくるわ」


「お気をつけて、いってらっしゃいませ」


 私は執事に行先を告げ、侍女を伴い、市庁舎へ向かった。


 父名義のものが諸々残っているいるので、名義変更の手続きをするためだ。

 その後、国立銀行にもよらなければならない。


 父の個人資産の遺産分割が終わったので、その手続きもしなければいけない。

 相続人が母と私だけだから、早めに済んで良かった。

 顧問弁護士が手際よく手続きを進めてくれたおかげね。


 軽く息をつきながら馬車の小窓から、商店街が立ち並ぶロマニエ通りを眺めていると、思いもかけない光景を目にした。



「――――え…」



 それは…シェルダンとセリルの二人。


 何か言い争っている様子だった。

 シェルダンはセリルの両肩に手を置くが、それをセリルが振り払う。


「と、止めて!」


「どうっ どう!」


 馭者ぎょしゃが慌てて馬を止める。

 私は馬車から飛び出すと二人がいた方向に走り出した。


「お嬢様!」


 侍女が私を呼ぶ声が聞こえたが、構わずに人込みの中を掻き分けながら先へ進んだ。


「どこへ行ったの…?」


 見失った…


 今のは何だったの?!


 どうしてシェルダンとセリルが一緒にいるの?!


 言い争って…セリルをなだめるかのように、彼女の肩に手を置くシェルダン。


 何!? 私はいったい何を見たの!?


 最近、会えなくなったシェルダンとセリル。



『私、実はシェルダンにあこがれていたの』

『あこがれよっ あ・こ・が・れ!』



 冗談のように言っていたセリルの言葉を思い出す。


 父の葬儀の日…母の指輪を届けに、屋敷に向かったセリル。

 今考えれば…教会に戻って来たセリルの様子がおかしいとは思ったけれど、あの日シェルダンと何かあったの!?


 ま、まさか…セリル…シェルダンと…?


「う、嘘よ…っ そんなの…そんな事ある訳が…っ」


 私はその場でへたり込んだ。

 信じられない想いの中に、疑惑が次々と芽生える。


「お、お嬢様っ どうなさったんですか?」


 追いかけて来た侍女が、私に駆け寄る。


 近くで聞こえる侍女の声が、遠くに感じる。

 私の胸の鼓動が、耳元で鳴り響いている。


「お嬢様! 大丈夫ですか!?」


 侍女が心配そうに私の顔色を窺う。


「ええ……」


 大丈夫じゃない。

 けれど、こんな道端でへたり込んでいる場合ではない。

 侯爵家当主としてみっともない…


「……っ!」


 こんな時に、体面を考えている自分が嫌になった。


「…セリルの屋敷へ向かうわ」

 私は侍女の手を借り立ち上がると、来た道を戻り、待たせている馬車へと向かった


「えっ で、では先触れを…」


「必要ないわ」


 馬車に乗り込むと、セリルの屋敷へと急がせた。

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