第36話 魔術大国の王子
『伝説級の魔石、現る』
『匿名希望者が出品』
『魔石は既に王室鑑定士により鑑定済み』
俺が出品する魔石は、新聞で大々的に報じられた。
匿名での出品ではあるが、王室鑑定士による正式な鑑定書が付属しているため、品物の信用性は確固たるものとなっている。
王室鑑定士とは、王国が認定した最高位の鑑定士であり、その鑑定結果は王族や貴族の間でも絶対的な信頼を得ている。
ロードオークションハウスでは、俺みたいな事情で出品する時は王室鑑定士に鑑定してもらってから出品するらしい。
今回俺が出品する魔石は、相当なものらしく、かつてない巨大な魔石を求めて、世界各国の魔術師たちが集まっているのだとか。
それに、王族や貴族も来場しているとのこと。
何だか俺の想像を遙かに上回る展開になってきたぞ。
◇◆◇
ロードオークションハウス――
円形闘技場に隣接する赤煉瓦造りの建物で、王都でも屈指の格式を誇るオークション会場だ。
その前には、すでに多くの人々が列をなしていた。魔術師、貴族、商人、そして物見高い市民たち。
俺とリリは、ギルラントからもらったVIP入場チケットを使い、一般の列とは別の入り口から入場する。
受付でチケットを渡すと、21と書かれた名札を渡された。これは入場した順番で、胸につけておく必要があるらしい。
こういう場所にはドレスコードがあるため、俺は久々に貴族の正装に袖を通した。
リリも自前のドレスを着ていた。おそらく曾祖父さんに随行する際、こうした場に出る機会があったのだろう。
流行り廃りのないクラシックなドレスで、彼女によく似合っている。
出品者は、契約書類や支払いの手続きなどがあるため、オークションに参加しなければならない。
子供は入場できないため、 ヴィオルは少しの間だけマルセリナのところで預かってもらうことになった。
ヴィオルは今、劇団の子役たちと遊んでいるらしい。
オークション会場の席は特に決まっておらず、どこに座ってもいいようだ。
競りに参加するわけじゃないし、一番後ろの席に座るとしよう。
客席は階段状になっているので、その方が会場全体を見渡しやすい。
俺とリリは席に着いた。
「何だか緊張しますね」
少し上ずった声でリリが言った。
俺も、こういう場所は初めてだから、少しドキドキしている。
オークションに参加する人たちは、貴族のほかに商人、魔術師、薬師などもいる。
身分に関係なく入れる場所ではあるが、金がなければ入れない場所でもある。
「ここ、良いかな?」
不意に声をかけられ、俺はビクッとした。
――今、寒気のようなものを感じた。
右隣へ目をやると、一人の青年と、護衛らしき騎士が立っていた。
「え、ええ。特に知り合いはいませんので、どうぞおかけください」
俺が言うと、青年は頷いて俺の右隣の席についた。
寒気の原因は、青年の護衛か……顔は優しそうだが、研ぎ澄まされた空気をまとっている。
護衛の騎士は俺の方を一瞥してから、青年の隣に腰を下ろした。
多分、向こうも俺を意識しているな。
俺もまた、そういった雰囲気が滲み出ているのだろう。
一方、青年は赤い髪と空色の瞳が印象的だった。
……どこかで見た顔だけど、どこの貴族だっけ?
俺が記憶の引き出しをあれこれ探っていた時、青年が俺に声をかけてきた。
「今日は人が多いね。皆、例の魔石が目的みたいだな」
「そうですね」
その魔石の出品者です、とは言えず、俺は適当にあいづちを打つ。
「あんたも噂の魔石が目的?」
「……い、いえ、自分はただの見学です」
噂の魔石。
それは、俺が出品している魔石に他ならない。
まぁ、俺が出品する魔石の晴れ舞台を見に来た、という意味では間違っていない。
「僕は、あの魔石を狙っているだ」
「へ、へぇ。そうなんですか? 倍率高そうですけど」
「倍率は高いだろうね。一番の好敵手は、最前列にいるセレスティアの第一王女かな?」
「――」
え……あ、本当だ。
最前列に王女殿下が座っていらっしゃる!?
よく見たら、周辺の席は護衛で固められているじゃないか。
セレスティア王国第一王女、ミリアム・セレスティア。
王族もオークションに参加することがあるとは聞いていたけれど、彼女もあの魔石を狙っているのか?
「僕はハーディン王国の第一王子、レオナルド・ハーディン。こっちは護衛のウィスト・ベルモンド」
ま、魔術大国のハーディン王国!?
思い出した!
以前、ここセレスティアで三大国会議が行われた時、国王と共に来訪したのが、このレオナルド・ハーディン王子殿下だ。
俺はその時国王陛下と王子殿下の護衛を担当したのだ。
とんでもない国の王子様がここに来てる……って、なんで余所の国の王族が、初対面の俺に自己紹介してるんだ!?
ウィスト・ベルモンド――どこかで聞いたことがある名だと思ったら、ハーディン王国の将軍の名じゃないか。
かつて王城に魔物の軍勢が攻め込んできた時、大活躍した英雄でもある。
俺とリリは慌てて立ち上がり、胸に手を当てて一礼した。
「そんなかしこまらなくていい。一応、お忍びで来ているから」
「……忍んでいるお方が、なぜ本名を名乗るのです?」
「もちろん。あんたと話がしたかったからだよ、レドーク・エルヴェノム副団長」
「――」
一瞬、息が詰まりそうになった。
その肩書きで呼ばれるのは、久しぶりだ。
副団長という立場であったけれど、あの時は数多くいる護衛の中の一人にすぎなかった。
まさか顔と名前を覚えられているとは。
「元副騎士団長です。今は騎士団を辞し、領地経営をしております」
――経営というか、今の時点では自給自足に近い生活だけどな。
今回の魔石が売れたら、少しは生活も変わってくるんじゃないかと思う。
すると、レオナルド王子は目を輝かせて俺の方を見た。
「王国騎士団、辞めたんだ。もし、職に困っているのなら、ハーディン王国に来ない?」
「……え!?」
「レドークほどの実力者なら、好待遇で迎えるよ」
な、何の躊躇もなく誘ってきた!?
俺ほどの実力者って何を根拠に……いや、よく考えたら一つ思い当たる節が。
この王子様、魔物退治を日課としている変わり者で、セレスティアに滞在中、この人の魔物狩りに同行したことがあったのだ。
その時に、ゴールデンボアが突撃してきたから、俺はとっさにそいつを仕留めた。
『すごいな、こんな巨大な魔物を一発で仕留めるなんて』
『恐れ入ります。まぁ、慣れですよ。こういう狩りは日常的なので』
『へぇ……そうなんだ。日常的ね』
そうだった。
あの時一度だけ、王子殿下と会話をしていたんだった。
俺的には、日常の出来事の一つにすぎなかったが、よく考えたら、王子殿下の前でド派手な活躍をしていたのか。
他国の実力者を引き抜く話はよくあるが、もしかしてあの時から目をつけられていたのだろうか?
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