6話 二世界のハンバーグ。

〜前回までのあらすじ〜

引きこもりの主人公コースケは夢世界へ紛れ込んだ。

そこで出会ったコーギー犬のナギに過去に戻る方法があると聞く。

ナギと素材集めをした際に、コースケのスキル「必中」の課題があることを告げられる。

鍛冶屋に素材を持っていった後、コースケは旅立ちの決意をする。

その時、鍛冶屋にいたミルが突然現れたのだった…。



バン!

ドアが勢いよく開く。

「旅、行く!」

そういったのは、鍛冶屋の女の子ミルだった。


「どういうこと?」

『どういうこと?』



「ミル、それじゃわからへんって。」


ドアの後ろから筋肉質の女性がいた。ナツメさんだ。

さっきの作業着のままだ。


『ナツメも来たのか?どうした?』

「ナギ。早速やけど素材集めの話、もってきたで。」

そう言ってナツメさんとミルは家に入ってきた。

そして俺と目があった。

俺は軽く会釈した。


「ところで自分、誰?」


突然俺の方を見て質問してきたナツメさん。


「あ、俺コースケです。ナギと…。」


「コースケ?」


ナツメは俺の顔をじっと見た。

顔が近くてドキドキする。

ちょっといい匂いがして、胸元も…。

いや!ダメだ。冷静に冷静に…。



そんな俺の表情をみてなのかわからないが、ナツメはフッと笑った。


「そうかそうか。あんたコースケか。おもろいなぁ!なぁナギ。」


ナツメは俺の方をポンポンと叩いて、ナギの方を見た。

ナギもフッと笑った。

よくわからない。



「そや。この可愛らしい子はミル。うちの助手兼看板娘やで。手出したら殺すで。」

ナツメは笑いながら言った。


ミルもやっぱり可愛い。目がくりくりとしていて色気とかはまだまだだけど。

…この思っていることバレても殺されそうだ。冷静になろう。


「よろしく、ミル。」

「さっき会った。」

そうだけど、一応挨拶してくれてもいいじゃん。可愛げなかった。


ナツメはテーブルの上の食べ終わった食器に気がついた。


「まさかハンバーグ食ったん?」


『あぁ。相変わらず美味かったぞ。』


俺は食ってないのだが。


「あのハンバーグ、世界一やんな!もう少し早く来たらよかったわ。」

ナツメ、さっきハンバーグ食いに行ったんじゃないの?

そう言われるとあのハンバーグ、俺も食えばよかった。


「そうそう!忘れよった。素材集めなんやけど。ちょっと厄介で力を貸して欲しいんやわ。」

ナツメはそう言ってテーブルそばの椅子に座った。


『ちょっと嫌な予感はするが、聞こうか。』


ナギはピョンとはねて椅子の上に立ちテーブルに前足を置き寄りかかった。

その姿を見て俺とミルも椅子に座った。


「今回はロックバイパーの紅玉なんや。それも3つも。で金貨30枚って話。」

確かナギが言ってたな、金貨10枚あれば1ヶ月生活できるって。


ナツメがそう言ったあと、ミルはテーブルの上の食器を避けてカバンから本を出した。

パラパラめくって、ヘビの絵が書いてあるページを開いた。


「これがロックバイパーや。3mもあってでかい上に鱗が岩のように固い。で噛まれれば石化する毒付きのおまけ付きなんや。」


いやいや、ヤバすぎるだろ。いくら金貨30枚だとしても、こんなの倒せるのか?


……。

ちょっと待て。倒す?

もし俺が戦ったとしたらどうやって勝つ?この大きくて硬い相手に。

…石を投げる?効かないだろ。

…前みたいにナギを投げる?洞窟なら天井にぶつけてしまう。


そうか。

もしかして”必中”のスキルの課題って…。


ヘビの絵をじっと見ている俺に気づいているナギ。

ナツメは絵を指さしながら説明を続けた。


「こいつの額に赤い石が埋まってて、これが今回の狙いの素材なんや。」


『ちょっと待て。確かにまた依頼してくれとは言ったけど、これはワシがこなせるレベルじゃないぞ。』

ナギがそう言うと、ナツメはニヤリとした。


「そう!そこで本題なんやけど、うちらも一緒に行こうと思ってんねん。」

「旅。行く。」

ナツメの発言に続いて、ミルが急に声を出した。


「まぁ、この紅玉はある程度の技術がないと取り出せへんから、どっちみちうちらが行かなあかんねんけどな。」

そう言うナツメの横でミルはうんうんと頷いている。



『コースケ、今思っていること当ててやろうか?』

突然のナギの言葉に俺は驚いた。


『このヘビを倒す方法が思いつかない。じゃないか?』

まさにその通りだ。


「そうなんだ…。でもナギが言っていた”必中”の課題、3つの内1つがわかった。」


『何だ?』


「それは武器だと思う。」

ナツメとミルが俺を見た。俺の話に興味を持ってくれたみたいだ。


「必中スキルは遠距離攻撃が向いているだけに武器が難しい。小石やボールじゃ命中してもダメージは少ない。強力な武器でも投げてしまえば手元に武器がなくなる。”一撃で倒せる武器”か”消費しないもしくは消費しても構わない武器”が必中スキルには必要なんだ。」


そうだ、これは野球じゃない。投げるものもボールとは限らない。前は小石でしのいだ。

スキルがあっても敵と出会った時に投げる武器がなければ…。

俺は旅に出ても役に立たないんじゃないか…。


ーーーそう思うと俺はうなだれていた。

ナツメとミルは静かに俺を見守っていた。



そんな時ナギが肩に飛びのってきた!


『そうだ!偉いなぁコースケは。よく気がついたなぁ。』


短い足で頭をクシャクシャに撫でられた。犬によしよしされている俺って…。

それを見てナツメが大笑い。ミルも顔を隠してクスクス笑ってた。


「ほな、ちょうどええやん!うちとミルが武器作ったるわ。」


「マジで!?」

髪の毛クシャクシャの俺は思わず立ち上がっていた。


「ええやんええやん!乗り気やん。ほしたらあと場所の説明やな。」


ナツメはテーブルに地図を広げ指で指しながら説明し始めた。


「このヘビがおるのが、ここから西の方角にあるガルム城ってとこなんや。昔戦争で負けて廃墟になった城なんよ。」


『ガルム城!?確か古代魔法の研究をしていて、その研究成果を手に入れようとした他国に襲われて廃墟になったんじゃなかったか?』


「噂じゃそうらしいな。レア物の魔法書物もあるとか、って話もあるみたいやし。」


俺とナギは顔を見合わせた。


『もしかして?』


「ナツメ、追憶の書ってきいたことあるか?」


ナツメは腕組みをして考えていた。


「きいたことはないけど…。もしかしたら何かヒントはあるかも、ガルム城に。」


『行こう、コースケ。きっとこれは行けって神様の合図だ。』


リスクはあるけどリターンが大きい。

ここは勝負どころかもしれない。



「いこう!ガルム城へ!」


「ほなきまり!みんなで行こう、素材集め!」「集め!。」

肩のナギを見たら短い尻尾をヒクヒク動かして笑顔だった。



不思議だ。

さっきまでかなり怖かったのに、今はできそうな気がしている。

仲間がいるから?

…。

そうだったな。俺も前はそうだった。

辛いランニングも、仲間でワイワイしながら楽しいときもあった。


旅。まだ少し不安はあるけどワクワクも出てきた。


ーーーそう思っているとナツメの左腕の肩の辺りが赤く光った。


「お、もうそんな時間か。」

ナツメはそう言ってミルをみた。ミルは大きく頷いた。


「旅、行く…」ボン!

ミルは話している途中で人形になってしまった。


「じゃ、よろしく頼むわ。こっちの準備ができたら迎えに来るわ。」

ナツメはミルの人形をもって家のドアを開けた。


「今度ハンバーグ食う時はうち誘えよ。」

そういってナツメはドアを閉めた。



そうしているとナギの左前足も赤色に光った。俺も時間みたいだ。

ナギが俺の方を見た。


「俺もそろそろみたいだ。」


『コースケ。』


「なに?」


『ありがとうな。』


「何がだよ。」


『旅、行こうな。』


「あぁ。」


『今度は一緒にハンバーグ食お…。』


…。

…。

…。


暗い。

いつもの天井が俺の上に見える。

寝てたのか…。

ほんとずっとゴロゴロしているな、俺。

もう20時。

そうか、昼飯食ってないからこんなに腹が空いているのか。


なんだろ、すげーハンバーグ食いたい。

肉汁多めで大きめのハンバーグを食べたい。


コンコン。

「コースケ、晩御飯おいておくから。」


…。


「……おかず何?」

つい訊いてしまった。


「え!えっと、あの、ハンバーグだけど…。」

明らかに母の声は動揺していた。

たぶん久しぶりに返事したからだと思う。


それよりもハンバーグ!ばっちり最高!

ウトウトしていた俺は目が覚めた。


俺は気がつけば部屋のドアを開けていた。

ドアの足元に明らかにうまそうなハンバーグ、そして驚いている母。


「うまっ!」

ドア開けたまま俺はその場でハンバーグを食べた。


「そう…。そう!よかった。ハンバーグまた作るね。」

母は泣いていた。


その姿をみて、本当に今までずっと母が心配してくれていた事を感じて泣きそうになった。

バレないように一気にご飯をたいらげた。


「ごちそうさま。美味しかった。」

照れくさくなって俺はドアを締めた。

ドアの向こうで母の鼻をすする音がした。


「ありがと。」

俺はそういってベッドにうつ伏せになって寝転んだ。


今まで言えなかった言葉。

きっと聞こえないくらいの声でもう一回だけ、こっそりと俺は独り言のように言ってみた。



「ありがとう、母さん。」

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