5話 追憶への旅立ち


〜前回までのあらすじ〜

夢世界に紛れ込んだ主人公コースケ。

そこで出会ったコーギー犬のナギから「時を戻す方法」があるときく。

ナギの家に侵入していたゴブリンズをスキルの指輪を使い退治。

次の旅立ちを約束してコースケは現実へ戻っていった…。



ザッザッザッザッザッ!


ナギが森を疾走している。



ドスドスドスドスドスッ!


ナギの後ろから大きなイノシシが追いかけてくる!


「しつこいな。」


ナギは左右に木を避けながら疾走!



ボキッ!ドン!ガサッ!

イノシシは巨体を活かして避けずに破壊しながらナギを追走!


「これでどうだ!」


ナギは眼の前にある大木に向かって突進し、衝突直前で左折!


ドォォォォォオン!

イノシシが大木に衝突!衝撃で近くの鳥達が飛び立っていく。でかイノシシ沈黙。


「ふぅ、危機一髪。ん?」


汗を拭うナギの左手、肉球のマークが青く光った。


「お、来たか。」

ナギはリュックをゴソゴソし、コースケの人形を取り出した。


ボンッ。

煙の中からコースケが現れた。


「よ、コースケ。ちょうどよかった。」



……。

……。


ここは?森?


さっき部屋のベッドで横になって…。


あれはコーギー…ナギ!あぁそうか夢の世界か。


俺は一瞬で思い出した。ナギと出会ってゴブリンズやっつけた時のこと。


『コースケ、ちょうどいいところに来た。このイノシシの角取ってくれ。』


バカでかいイノシシが大木の前でのびてる。その横に30cmくらいの角が転がっていた。


「でっけぇ角。どうすんだよコレ。」


『それ、高く売れるんだよ。』


よくわからないが言われた通り拾っておこう。

結構重いなコレ。


ブルブルブル…。


嫌な予感。

ゆっくりとイノシシを見るとゆっくりと起き上がろうとしている。

イノシシと目があった。

…。

……。



『コースケ、ダッシュ!!』



流石に俺もわかった。逃げないと!

ナギと俺、全力疾走!


ブヒーーーーッ!ドスドスドス!


追いかけてきた!早い!追いつかれる!


『仕方ねぇ。コースケ!俺を上に放り投げろ!!』


「何いってんだよ!また前みたいに犠牲になるつもりか!」


『大丈夫だ!いいから!』



俺はナギの体を抱え、上に放り投げた。


あれ、軽すぎない?

思いの外ナギは高く上がった。

ナギを見上げたイノシシは急に止まり、落ちてくるナギを狙っている。


『重(ジュウ)!』


ナギは真下にいるイノシシを確認してからそう言った。



ドーーーン!

一瞬だった。土埃が大きく舞った。

土埃から気絶したイノシシと、その上にちょこんと据わっているナギがいた。


「ナギー!大丈夫か?」


『くそ、ホコリまみれだ。』

イノシシからぴょんと飛び降りてブルブルホコリを払うナギ。


『さ、帰ろうぜ。その角売ってその後飯と風呂だ。』


「あ、あぁ。」


『あ、そうそう。この前の続き、”時間を戻す方法”の事も調べているぞ。』

ちゃんと覚えてくれてたんだ。


俺達はナギの家がある街「フェーナ」に向かって歩き始めた。




「なぁナギ。さっき何やったんだ?どうやってイノシシ倒したんだ?」


『実は俺もスキル持ちなんだよ。ちょっと荷物もっててくれ。』

俺はナギのリュックを持った。


ナギは体を伏せ耳をペタンを寝かせた。


『軽(ケイ)』


ナギがそう呟くと、なんとナギがゆっくりと浮き始めた!

そのまま俺の腕の高さまで浮いて来た。


『コースケ、ちょっと俺抱えてみ。』

俺は言われるままナギをかかえてみた。


「は?軽っ!重さねーじゃん!」

確実に浮いている。しかもシャボン玉みたいに風で飛んでいきそうな軽さだ。


『しっかり持っていろよ。重!』

言われた通りちゃんと抱えた後ナギは言った。

途端にナギの重さを感じた。いや、どんどん重くなる!


「ふんんっ!」

重いっ!

流石に重く俺は膝ついた。そしたら急にふっと軽くなり、ナギが俺の手の間から飛び降りた。


『スキル名:重力制御。俺は自分にかかる重力を変えることができるんだ。』



「つまり、こんな感じ?軽くなって空高く浮いた後、隕石みたいに重くなったナギが降ってきたってことか?」


『そういうことだな。』


「すげーじゃん!ナギそんなに強いとは思ってなかった。」


『そうでもないぞ。軽くなって身軽になれてもワシ一人でできる攻撃方法は少ない。』


言われてみればそうだ。

足の短い地面に近い位置のコーギーが、相手の上に飛び乗るチャンスは少ない。


『これはお前のスキルにも言えることだ。』


「何が?どういう事?」


『お前の必中スキルにも大きな課題がある。それも3つだ。』


俺の必中スキルの課題?3つも?

ピッチャーやってた俺からしたら”狙ったところに必ず当たる”なんて最高だけどな。


『まぁとりあえず、街に帰って休もうぜ。腹へったし。』


ナギは先にトコトコ歩き始めた。

もやもやしながら俺もナギについていき街に向かった。


必中の課題…かぁ。




周りは茜色にそまり、すっかり夕方になっていた。

街もあちこちでランプに明かりをつける準備をしていた。


イノシシの角を売るために鍛冶屋に来ていた。

小さなお店のところ狭しに色々な武器がおいてあり、奥に在庫を置く場所と加工場と思われるスペースが見える。小さな皮の作業着を着た女の子が店員をやっている。


肩くらいまでの銀髪の少女。可愛らしい顔だが眼には目力がある。

頬にすすがついており、先程まで作業していたのだろう。


『ミル、ナツメは?』

ナギが女の子に話しかけた。

ミルと呼ばれた女の子は頷いて奥を覗いた。


「ナツメー。つのー。」

ミルは抑揚のない声で呼んだ。


「つかれたー!」

奥の作業場から、赤髪を後ろに束ねた女性がのれんをくぐって現れた。


つなぎの作業着を上だけ脱いでタンクトップ姿のナツメ。

背も俺と変わらないくらいだが、力強く引き締まった筋肉。

でも出るところは出ていて…。目のやり場に困る。

きっとこの人と喧嘩したら勝てる気がしない。喧嘩しないけど。


「ナツメ、つの。来た」


「うち頑張ったわ。もう頑張りすぎて死ぬかとおもたわ。」


ナツメと呼ばれた女性は束ねてた髪をほどいて、大きく息を吐いた。

はだけた髪からいい香りがした。

なんだろう、ガサツぽいのに色っぽいなこの人。


「あかんわもう。腹減って死にそうや。とりあえずハンバーグ食いに行くわ。」


「ナツメ、つのは?」


「あー、ミル預かっといて。今ハンバーグのことしか考えられん。」


そういってナツメは店の外に出ていった。

本当にハンバーグのことしか考えられないのか、俺に気づいてなかったみたいだ。


…。

店内に沈黙が訪れる。

嵐のように現れ、嵐のように去っていったな、あの人。


女の子は小さくため息をついてこっちを見た。

「つの。」


『あぁ、これだ。コースケ、渡してくれ。』

女の子は俺の方をじーっと見て両手を差し出した。

俺はその手の上に角をおいた。

女の子は手の上の角をじーっと見つめている。


「いい。」

そういって女の子はニヤッと笑った。笑うと可愛い。


『ちょっと傷やヒビがあるが素材問題ないぜ。』


「大丈夫。直す。」

女の子は目を閉じ、右手で角をゆっくり触っていった。


「!!」

俺はびっくりした。

触ったところの傷がなくなり、あの硬い角が丸みを帯びていき、最後にはきれいな球体になった。


「できた。」

俺の目も丸くなった。


「え?マジ?あの角結構硬いし重かったのに、え?まん丸に?」


『ミルは触ったモノの形を変えることができるんだ。』

なぜかナギが自慢そうに言った。


女の子ミルは引き出しからお金を出し、ナギのリュックに入れた。


『ありがとうなミル。また必要な素材あったら言ってくれよ。』

ミルは口元だけ笑って小さく手を振っていた。

ナギは”ワン”と一鳴きして外に出た。俺も会釈して店を出た。



ぼーっとしていた。


ここはナギの家。

ナギはテイクアウトしたハンバーグを食べている。


『食べないのか。』


「一つのハンバーグを2人でくう勇気はない。」


ナギはいつものクセで1つしか買わなかったのだ。

なぜだろう、人が食べているものがすごく美味そうに見えるのは?


『そういえば、時間を戻す方法の話をしないとな。』


ナギはペロリとハンバーグを食べきった。

ちょっとくらい残してほしかったな…。


ナギは低いソファーにぴょんと飛び乗り俺の方を向いた。

俺もナギの方に体を向けた。



『追憶の書。それがあれば過去をやり直すことが可能だ』



確かにここは夢の世界だ。

でも本当に過去をやり直す方法があるとは信じきれていなかった。

俺は可能性が0ではないことに驚きと期待を感じていた。


ナギはソファの横にあった一冊の本を咥えてテーブルに置いた。

栞が挟んであるページを見ると、時計の絵や複雑な文字が書かれていた。



『追憶の書にかかれている呪文を唱えることで、願った時間に戻ることができるという話だ。

なのでその呪文を現世で唱えれば…。お前の願いは叶うかもってことだ。』


次第に開いた本のページの文字がぼんやりと日本語に変換されて、少しは読めるようになった。


『ただ、どこにあるかまではわからない。噂じゃ最強の魔王が手にしたとか、秘境の洞窟の中に隠されているとか、手にしたものは必ず死ぬとか。確証ない話しかない。』



どうする?

確かに本にも書いてある。

可能性はある。

ただわからないことだらけ。

できるのか?そこまでして俺は戻りたいのか?


ナギはため息をついた。

『わかりやすいなぁ。どうせ”俺にできるのか?”って迷ってんだろ?』


思わず俺は顔を上げた。


『前に言ったろ?この夢世界は”願い”や”希望”を叶えることができる世界だ。できるできないじゃない、ここはできる世界だ。後は”やるかやらないか”それだけだ。』


やるか…やらないか…。

このままこの辛い思いを引きずっていくよりは、やれることをやったほうがいいのか。


あの日で色んな人の未来を変えてしまった。

涙を流すやつ、悔しがるやつ、失望したやつ、そして俺に嫌悪の気持ちを表したジン。

あの過去を変えることができれば、もう一つの未来に変わるはず。

過去も、そして俺自身も変えたいんだ!


『行こうぜ、相棒。』


…。

少しの間、俺は本のページを見つめていた。

やるか、やらないか…。


ーーーよし。


「うん。行こう。相棒。」

俺がそういうと、ナギは前足を上に出してきた。

その愛くるしい前足に俺は今回はハイタッチをした。



あの日以来、何をしてもうまくいかない気がしていた。

何をしても何を話しても人に嫌われる気がした。

そして俺はなにもしなくなった。

「やるか、やらないか。」

俺はやってみようと思う。

相棒と言ってくれる新しい仲間と共に。

ーーー全てを変えるために。



バン!


ドアが勢いよく開く。


「行こう!旅!」


ドアを開けそう言ったのは、鍛冶屋の女の子ミルだった。


「どういうこと?」

『どういうこと?』




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