一人前の炒飯
彩原 聖
詩
冷めたご飯と不安を混ぜる
どっちも昨日の残りもの
火を強めると さっきの涙が跳ねて
いい感じに カリッとなった
フライパンを揺すり 気持ちをひっくり返す
うまくいかなくても まあいいか
人生も 焦げ目があったほうが香ばしい
みそ汁は昨日と同じ味
でもあの頃のあなたの分は もう作らない
茶碗の数が一つ減っても
食卓は続く
空いた席に 少しだけ寂しさが残る
湯気のむこうで 呑気にテレビが笑っている
その音に混ざる 自分のため息
手を止めずに 箸を握る
そして 知らぬ間に涙がひとすじ落ちた
溢れる涙は とめどなく
嗚咽が漏れて 膝を折る
帰ってきて欲しい いつもみたいに
笑って欲しかった これからもずっと
明日もきっと こんな日々は続く
でもフライパンがあるかぎり
不安もこうして炒めれば
意外とうまいと 思えるかもしれない
どうにかなるんだと 自分に言い聞かせる
それでも 胸の奥で
割り切れない思いがこぼれる
ふとした瞬間 味も香りも色も
すべてあの日のあなたを思い出させる
一人前の炒飯 彩原 聖 @hijiri0827
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