ダンジョン攻略なんてゴメンだ

 ゆっくり休んで話し合ってから『異空間』の外へ出る。


「【飛翔】」


 天井から出る時はアマネが『言霊』で飛ばしてくれた。


「いいね、文字で書くより早い」


 言ってから躊躇わず外へ出る。周りには人もモンスターもいなかった。


「さて、行くか。死んだと思わせて目立ったら面倒だ。程々にダンジョン探索をして、路銀を稼いでから先生を救出してこの国から離れよう」

「ええ、わかってるわ」


 方針の擦り合わせは済んでいる。ただの確認だ。


 奥へと進みモンスターと初遭遇。俺は、だが。

 アマネは『言霊』の魔法でこの街に来る道中倒しているらしい。直接戦闘は避けていたとか。【索敵】でモンスターを極力避けていたのでその時点で怪しまれるようなことはなかったのだろう。


 俺が初めて相対したモンスターの姿は灰色の狼だった。ただし脚が六本ある。その分大型で全長三メートルくらいあった。『鑑定』結果でわかった名前はウルフェルヴ。レベル十五。充分手強い相手だ。


 『気配察知』があるのでこちらが先に気づいていたが、察知してから相手が接近してきた。警戒するように唸り歩いてくる。ある程度距離を置いて回るように歩いていた。タイミングを窺っているのだろう。


 俺は左手で剣を構えながら狼の赤い瞳と目を合わせる。実戦は初だ。少し後ろに控えたアマネがいるからいざとなれば援護してもらえるとはいえ。


 歯を剥き出しに唸り、完全な敵意を向けられる。元の世界ではなかった緊張感に身体が固くなりそうだ。

 相手が足を止めて一気に突っ込んでくる、瞬間に右手を動かした。


 【アクアエッジ】を空中に描いて水の刃を飛ばす。魔法より発動時間が短いこともあり不意を突けたからか、ウルフェルヴは水の刃で鼻先から横真っ二つになった。


 訓練で見た時よりもグロテスクな死に方だが気分が悪くなることもない。


「本当に演技だったのね」

「お互い様だろ」


 俺もそうだがアマネもけろっとしている。

 モンスターを狩ってお金にするには素材を剥ぎ取る必要がある。グロいのが無理だと冒険者稼業なんて以っての外だ。


 俺は背負った布袋を下ろしてギルドで貰った剥ぎ取りナイフを取り出す。ウルフェルヴの死体の傍で屈みナイフを使って剥ぎ取りしていった。

 『鑑定』のおかげでどこを剥ぎ取ればいいかわかる。牙と爪と毛皮が素材、肉は飛び散った内臓と混ざってて面倒そう。そういう意味だと毛皮もか。いや、毛皮は綺麗にすれば大丈夫そう。

 牙と爪を根本から折るように獲って毛皮をナイフで剥いでいく。後から手袋をした方が良かったかなと思い始めた。今更だ。血生臭いし手について嫌だったし内臓を裂いたので途轍もない異臭がした。次からはもっと剥ぎ取りやすく倒した方が良さそうだ。


 四苦八苦しながら解体して肉と骨は放置。残骸や人の遺体はダンジョンが喰うので放置でもいいらしい。遺体については冒険者登録の証である冒険者証を回収すると身元がわかっていいらしい。人の死体はあまり見たくないが。


 解体し終えてから水で洗い流してから【キレイ】にする。手も【キレイ】にした後【消臭】した。素手は勘弁したいが、今回は仕方がない。


「解体とか分解とか書いたら簡単にできないの?」


 その発想はなかった。

 全てが終わった後のアマネの言葉にはっとさせられる。


「……次、やってみるか」

「え、ええ。ごめんなさい、先に言えば良かったわね」


 気が沈んだのを察したのか少し申し訳なさそうだった。

 というわけで次に狩ったヤツは【解体】してみた。……無事解体された。


「なんと言えばいいのか……手間が省けて良かったわね」


 気を遣わないでくれ、虚しくなる。


 だがこうやって他の人がいると自分にはない発想を得られることがある。気ままな一人旅をしようと思っていたがこういう場面があると協力者の有り難みを感じるな。


「それにしても便利ね、『刻印』。『言霊』は口に出さないといけないからある程度時間がかかるのに」

「モノによるかな。画数の多い文字使う時は時間がかかるし。水と氷は簡単だから使いやすいんだけど」

「棒一本でできるのは狡いわよ。ルーン文字というのよね?」

「ああ。知ってたから良かったが、知らなかったら漢字になってたかな。戦闘中使うなら短い方がいいし、こっちの世界にあるのかわからないし」

「そうね。私もイメージで現象を変えられるのは同じだけれど、どうしても二音になるもの。火とか木が使いやすいわね」

「普通の魔法と比べたら充分だ。代わりに極めた魔法は詠唱しなくても良くなるみたいだから、極めた魔法使いには敵わない」

「ええ、わかっているわ。危うく殺されかけたのだもの。驕りはないわ」


 利点はあるが欠点もある。そういう意味で言うと麻痺ってマジで俺達二人の天敵だな。麻痺らせた後に殺害しようとしていたらアウトだったし、なにか対策を立てておかないと。


 その後も戦いながらダンジョンの奥へ進んでいく。休憩する時はアマネの持っていた簡易テント……から『異空間』に入って休む。テントだとモンスターに壊される可能性があるからな。テントには【魔物除け】と書いたので大丈夫だとは思うが。


 そうしてダンジョンを進んでいくと、半日ほどで第十階層の最奥まで辿り着けた。

 初めてのダンジョンボスのお時間だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る