処分なんてゴメンだ

 監視の目を掻い潜るための策を考えてみる。

 街を見回りながら思考を巡らす。


 まずは相手の目的を考えてみよう。


 なぜ俺を監視するのか? おそらく英雄として召喚された一人だからだ。

 老人達の会話が正しければ俺達は一人一人が千人の命を贄にして召喚されている。犠牲にした以上の価値を発揮しなければ価値はない。元々始末するつもりであろう新垣先生は兎も角、逃げ出した俺もそう。


 俺のなにを監視しているのか? 行動……どんな? 俺が嘘を吐いていないこと? あり得る。不確かだが高い可能性だ。

 俺は殺しを嫌悪するフリをした。それがバレたとは考えにくい。ただ疑われている可能性は否定できない。若しくは俺が英雄として召喚された一人であることを吹聴しないか懸念している?

 わからないな。


 ここが肝なのになにもわからない。

 ただ始末が目的でないのも確かだ。始末するなら人目につかない道中の方がやりやすい。いや、人と擦れ違うこともあった。あそこは見つかりやすいのか? だとしたら俺を殺したい場合、そして殺しとバレないようにしたい場合、向いていないことになる。

 もっと人気がなくて死体の処理が容易な場所……ダンジョンに入るのを待っている? だがモンスターを狩れない俺がダンジョンに入る可能性はない。


 考えてもわからないことだらけで答えが出ないな。


 仕方がない、ここはバカを演じるとしよう。


 方針を決めて、冒険者ギルドで宿をオススメしてもらい宿泊する。『異空間』も一旦隠しておくためだ。寝る時は入る。寝込みを襲われる心配がないので素晴らしい。


 鍛冶師に弟子入りしようと鍛冶屋を回って押しかける。どこもステータスを見せろと言ってきたので見せられなくて普通に断られた。街中の鍛冶屋をあたって全部に拒否されてとぼとぼと帰路に着く。

 店を出すのは金がかかりすぎて無理。冒険者ギルドで装備メンテの依頼を個人で受けようとしたが迷惑がられて退散。


 何事も上手くいかず初めて酒を飲んでみた。記憶が飛ばないように少しずつ飲んだ後、酔っ払って見知らぬおじさんに絡んでみる。鬱陶しがられた。当たり前だが。


 ダンジョンにも行けず生産関係で雇ってもらえず路銀を賭博に溶かす。ダメ人間まっしぐらだ。


 路銀が底を尽きそうになってからようやくダンジョンに行く覚悟を決める。ここまで三日しかかけていない。俺にはダメ人間の才能があるかもしれない。


 代わりに顔が売れて声をかけられるようになった。大体は哀れみから来るモノだったが。変なヤツという印象が強いようだ。日頃の行いというヤツか。


 そんなダメ人間な様を監視の人に見せつけて、仕方なくダンジョンに入る。吐いても慣れるしかないという覚悟を決めた、フリをして。


 ダンジョンは基本地下へ続く迷宮だ。中にはモンスターが蔓延り財宝が眠っている。階層毎に環境やモンスターが変わったり十階層毎にボスがいたりする。モンスターの素材も売れるし、宝箱から金目のモノが出ることもある。

 まぁ宝箱は先駆者が持っていくので浅い階層では関係のない話だが。


 ボス討伐後には帰還の魔方陣があり、入り口の魔方陣に繋がっている。逆もまた然り。だから多くは魔方陣の前に並んで順番待ちしている。俺みたいな初心者は数が少ないらしい。空いていたので難なく入れた。


 ダンジョン内は通路が続いていて明るい。日の光は入って来ないが天井に光がある。

 第一階層は洞窟のようになっていて鉱石も採れる。出てくるモンスターも一番弱い。

 弱いと言っても儲かるダンジョンなので、他のダンジョンより強いらしいが。


 さて、モンスターを警戒しながらゆっくり進んでいると、監視もダンジョン内に入ってきた。と思ったら物凄い速さで接近してくる。仕かけてくるか。


 俺は猛然と近づいてくる相手に今気づいたフリをして振り返る。


 そこで初めて相手を視認した。黒ずくめの男。長身痩躯で頭に三角の突起物がついている。人族ではないようだ。ふさふさの尻尾から犬、狼を連想する。手には短剣、『鑑定』で麻痺毒の短剣と表示された。致死毒じゃなくて麻痺毒だと?


「えっ?」


 だがモンスターではないのできょとんとしてみる。相手は俺を睨みながら短剣を突き刺そうとしてきた。慌てて無様に避ける、時に脇腹を掠めた。刃が切り傷を作り痛くて熱い。しかも身体が痺れてきて力が抜けていく。


「うっ……」


 武器を落とし崩れ落ちる。演技ではなく本気。致死毒でない時点で受ける以外の選択肢はなかった。


「悪く思うな。貴様は我々の犠牲をなかったことにして責務から逃げ出した。……いや、言っても意味はないか」


 男は言いながらなにかの道具を取り出す。どうやら贄のことを恨んでいるらしい。始末しやすい場所に来るのを待っていたのか。


「さらばだ、異世界から来た英雄よ。恨むなら、貴様を送り出し始末を命じた王や大臣を恨むことだな」


 取り出したなんらかのオブジェクトを俺の前の地面に突き刺す。命令はやはりあそこか。よく見ると彼の首に首輪がついている。奴隷なのだろう。巡り合わせが悪いのはお互い様というわけか。


 オブジェクトが砕け散ると代わりに地面に魔方陣が描かれる。


「ダンジョンの最下層に送り込むアイテムだ。運が良ければ……また会えるだろう。その時は俺と一緒に王や大臣を殺しに来ることだな」


 彼の物言いには自嘲の色がある。命令だからこそこうしないといけないのだろう。家族が贄にでもされたか。

 そしてできれば復讐しに来てあいつらを殺して欲しいという願いも含まれている。


 彼は麻痺で動けない俺から背を向けて立ち去った。


 俺の身体は光に包まれていく。


 このままだとダンジョンの最下層で死亡エンドか。

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