剃りびと 蘭&護(8)護の1日 護&極道の女 響子姐さん
押戸谷 瑠溥
第1話 護、ヤバい女の毛を整える
「アソコの毛をカットしてくれはる人って、センセのこと?」
いきなり携帯に女の無遠慮な声が流れてきたのは寝入ってすぐのことだと思われた。
マナーモードにしていた呼出音が1度振動するかしないかのうちに、反射的に携帯を取上げた
部屋の中がこんなに明るいところを見ると、9という数字は夜中の9時ではなく、午前9時に違いない。
そばでは銀座のクラブホステスの
昨夜、遙の仕事が終わった後、彼女のマンションで定期的なヘアの手入れをして、それから2人でシャワーを浴びたりワインを飲んだりしたので、一戦のあと、寝入ったのはほとんど明け方近くになっていた。
「アソコのお毛ケをカットしてほしいのやけど」
と、電話の中の女は関西弁でズバリと言った。
「番号をお間違えです」
護はそう答えて携帯を切った。
普段なら登録外は気分次第で出ることも出ないこともあるのだが、寝ぼけて反射的に携帯を握ってしまったのがマズかった。
「間違い電話?」
遙が寝返りを打って、体を寄せてきた。
遙の陰毛をカットし始めて、3ヶ月になる。
アン美容室の幸村早苗の紹介だが、初めて陰毛のカットをした2週間後に遙から直接電話で依頼され、以後月に2度の割で手入れをするようになっていた。
遙とは最初の陰毛の手入れが終わったあとに体の関係も出来ていたので、それからは彼女のマンションへ呼ばれている。
「ねえ、護くん」
と、遙は護のペニスを握って、
「護くんって幸運の女神ならぬ男神なのかしら。護くんにヘアカットをして貰ってから不思議なくらい、どんどん指名が入るのよ。福マンやアゲマンってよく聞くけれど、護くんのは福チンね。それとも福指とでも言うのかしらね」
護は遙の中に1度放出していたが、またペニスの先がグズグズするのを感じていた。
「どうでしょうかね」
「私ね、他の男に見せるためにこうやって手入れをしているのではないのよ。護くんに手を加えてもらってからどんどん指名が入ってくるからなの。それに護くんとのお楽しみもあるから、2度美味しいってやつ。それってキャラメルか何かのコマーシャルみたいね」
「そう聞くとぼくも遣り甲斐がありますよ」
護が遙の乳首を唇でつまんだ時、また携帯が振動した。
画面を見るとアン美容室の早苗だったので、受信ボタンを押した。
「ああ、護クン。あたし、早苗よ」
「ええ。お早うございます。どうしたんですか?こんなに早く」
「こんなに早くって、もう9時を過ぎているわよ。ははん、昨夜はお楽しみだったのね。そのせいね、最近ちっとも私を構ってくれないのは」
早苗は笑いながら続けて、
「ところで、さっき関西弁の女性から電話がなかった?」
「ありました」
「けんもほろろに切られたって怒っていたわ」
「そんなつもりはなかったんですけどね」
「まあ、話だけでも聞いてあげてくれない?」
「はい。わかりました」
護はそんな早苗の、押しつけがましくないところが好きだった。
ベッドでは遙が護のペニスをくわえて、舌で敏感な部分を刺激していた。
ついさっき1度放出していたが、ひと眠りして元気を取り戻したペニスは遙の口の中で爆発しそうなほどいきり立っている。
早苗の電話が切れたと思ったら、すぐにまた呼出音がして、さっきの女の声がした。
「アソコの毛をカットしてくれはるセンセ?」
「そうですが」
「さっきはえらい愛想なしやってん」
「はっ?何のことでしょうか」
「何言うてんねん。リダイヤルで掛けたんやで。全く調子ええ人やわぁ、
女はブツクサ言いながら向井響子と名乗り、今から美容整毛をして欲しいと言った。
美容整形ならよく聞く言葉だが、
美容整毛?
美容性毛?
でも性毛と言うよりは、オマンコの毛はケと言った方が意味がよく通じるのだけれど、と思いながら護は今日の仕事の予定が夜8時だったので、女が宿泊しているという銀座のホテルRへ、午イチで出向くことで了解した。
「お仕事、入ったの?」
と、遙が聞いた。
「うん」
「じゃあその前に護くんの福を全部吸い取っちゃお」
遙はそう言うと、護の上にまたがった。
そして右手で護のペニスを掴むと自分の割れ目に当てて、ペニスの侵入を楽しむようにゆっくり腰を落としていった。
※※※※※
向井響子の待つ銀座のホテルRへ護が入ったのは、遙のマンションから1度自分のワンルームへ戻って着替えをして、ホテルの近くのカフェで軽い昼食も摂って時間調整をしたので、約束の時間の10分前になっていた。
そのカフェは銀座周辺で仕事がある時には時間調整のためにちょくちょく利用している店で、ちょっと気になる女子の顔も時々見ることが出来るので、密かに楽しみにしながら自動扉を入ったが、今日はその女子の姿を見ることはできなかった。
護は昼食をとり、そのあとホテルへやって来たのである。
部屋番号を聞いていたのでフロントを素通りして、エレベーターで目的階へ上がって扉が開いた瞬間、異様な光景を目にして護は足をすくめた。
廊下の先に3人の男がたむろしている。
その黒っぽいダブルの背広と、ズボンのポケットに手を突っ込んで
ヤバイな、
でもなんでホテル側はこんな傍若無人な振る舞いの男たちを許しているのだろうか、と内心思いながら護は、ゆっくりと部屋番号を確かめながら進んだ。
「おまはん、何者じゃい」
まだ10メートルも向こうから、3人の男の中で1番人相の悪いのが、小声で恫喝するような口調で聞いてきた。
「
と、護は名乗った。
対応の悪さに頭にきて帰った、と理由をつけて引き返す手もあったのだが、アン美容室の早苗の紹介ではそうもゆかない。
「おお。聞いてる聞いてる、ちょい待ちや」
男がドアをノックして、少しだけ開いたドアに向かって腰をかがめて、
「
と言うとすぐにドアが大きく開いて、35歳前後の華奢な女が白いバスローブ姿で現れた。
美人だが濃い目の化粧の下の顔立ちは派手で、いかにもその筋の男が夜の街で拾って2度目の女房か妾の1人に加えたというのが、見え見えの女である。
どうぞ、
と事務的に言った響子の後について部屋へ入ると、黒っぽい背広を肩から上っ張りのように羽織った男がソファーにすわっていて、護は思わず足を止めた。
年の頃は50代に入ったばかりだろうか、イガグリ頭の恰幅のいい、いかにもコワモテの、見ただけでチンピラヤクザというよりは、極道そのままの男である。
テーブルの上には飲みかけのビールがあり、そのそばの進物用の小箱の上に、真っ赤なランジェリーが広げてあった。
「おう。よう来たのう」
男はドスの利いた声でニヤっとした。
相手を威嚇しようとする声ではないようだが、普通に話していても脅されているような気が護にはした。
「まあ、すわれや」
はあ。
護は息を吐きながら七つ道具を詰め込んだバックを横に置いて、ソファーにすわって男と向き合った。
「ビールでも飲めや」
「ありがとうございます。ただ仕事の前にはアルコールは控えておりますので」
と、 護は答えて、
響子へ、
「アン美容室のお客様ですか?」
と、聞いた。
「ううん。私は行ったことあらへん」
見た目とは違う可愛い声で、響子は首を振った。
「どこでぼくのことを?」
「おまはん、大阪でも評判やで」
と、イガグリが口を挟んで続けた。
「おまはんにチン毛を散髪して貰ろうたら
「そうなんですか?」
「どこぞの奥さんが3億の宝くじを当てたんは、おまはんにチン毛を剃ってもろうたその帰りに買うた宝クジらしいやないか」
それに、と響子が続けて、
「美咲真弓も芸能界では落ち目の三度笠やったのに、ヘアヌード写真を出したとたん人気再沸騰やん。あれもセンセがお毛ケを剃ったんやと、聞いたでぇ」
確かにそんな話をアン美容室の早苗からも聞いていた。
そればかりではなく、さっきまで一緒だった銀座のクラブホステス遙はナンバーワンにのし上がったそうだし、ソープ嬢もヘルス嬢もキャバクラ嬢も、それぞれの店でトップクラスへ入って稼いでいるらしかった。
そんな話しが伝わったのだろう、K大学の女子新体操部からも〈敗戦剃毛儀式〉出演依頼がきて、ホテルの宴会場を借り切って仕事をしたのはついこの間のことだった。
それで、
やな、とイガグリが響子に顎をしゃくって、
「こいつも大阪のミナミでクラブをやらしてんねんけど、この不景気や。おまはんの手に触れたものはクズ鉄でも
「はっ?」
「はっ?やあらへん。剃ったってくれ」
「ここで、ですか?」
護は驚いた。
[第2話へ続く]
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