短編らしきもの
@edeasob1024
〜ハロウィンの独り言〜
今日はハロウィンっていうイベントの日らしい。
でもただの金曜日なので、私には関係ない。
イタズラを仕掛けてくれる人も、お菓子をくれる人も、話しかけてくれる人も私にはいない。
イベントはたいてい1人では成立しないものだ。
なんたってリア充にはなれないのだから。
ちなみに、リア充って言葉自体は、自分をリア充だと認識していない非リアたちしか使わないものだと思う。普通、リアルが充実してたら、リア充だって思う暇もないだろう。多分。
リア充という言葉を使う時点で私は敗北者だ。
誰とも戦ってないけど。
あえて人と距離をとって教室移動する私には敗者の称号がお似合いだね…。
今日もつまんないなぁ。
「ぶへッ!」
え、誰。
目の前で豪快にすっ転んで今にも泣きそうなJKがいる。まぁ、私もJKだけど。
流石に目の前で転ばれたら、声をかけないで素通りは逆に度胸がいることだ。だから私には無理。
「……大丈夫ですか」
「っ!大丈夫!死んでない!」
「いや死亡を確認したわけじゃないんだけど…」
大袈裟なこのJKは上履きの色を見た感じ、一個上の2年生っぽい。
「これをね、届けないといけないんだけど、どうやら放課後までに届けないと私、死ぬみたい!」
「これって手紙?誰宛なんですか?」
「んー分かんない!けど頼まれた!」
「いや、依頼した人に誰に届けるかまで聞かないとか馬鹿なんですか」
初対面でもさりげなく口が悪くなってしまった。これも私に友達がいない原因である。
「うーん、誰に頼まれたか分かんないんだよねぇ…」
どんどん支離滅裂になっていく会話。この多分先輩はもしかしたら、転んだ拍子に頭のネジまで外れてしまったのかもしれない。
「まぁ頑張ってください」
早く会話を切り上げようと、次の教室の方向へ歩みを進めながら、意味不明先輩に雑なファイトを送った。
「え、待って!お願い!手伝って!手伝ってくれないと呪っちゃうぞ…!なんて…」
なんか違う形でトリックオアトリートされているのだろうかこれは。
内容はとっても楽しそうじゃないけど。
「でも私これから授業なんですけど…ていうか先輩も授業ありますよね?」
「ん?授業?…あーいや、私は今日は特別で授業?なくていいの!特別!ハロウィンだし!」
新手のサボり魔だなこれ。
確信した私は、即座にこの場を離れようと「すみません、先輩はなくても私はあるので、これで失礼します」と無理やり説得…は出来てないけど、その場から逃げた。
ぼっちでしかも不良になるわけにはいかない。
非リアは非リアなりに慎ましく生きなければ。まぁ、すぐ口悪くなっちゃうけど。
無事変な先輩から帰還した私は、授業開始1分後で間に合ったわけだが、奇妙なことが起こっている。
なんか…違和感があるような…。
多分私が座る席に、さっきの変な先輩が座っている。
「…えぇ…そこ私の席なんですけど。ていうか最短で移動した私よりも先にいることの方が怖いんですけど」
「手伝ってくれるまで呪う準備してるから!そばにいることにしたの」
「それだとずっと準備することになりますよ」
「えぇー!やだー!」
先輩は子供のように駄々をこねた。周りからの冷たい視線が痛い。
「とりあえずあとで話聞きますから…昼休みにまた私のところ来てください…」
「わーい!絶対行くから逃げちゃダメだよ!」
「今どんなホラーゲームやっても先輩に勝てる怨霊いないと思います」
「そう?」
「嬉しそうな顔しないでください。褒めてないんですけど」
大人しく教室を出ていく先輩を見届けたところで、自分の席を取り戻す。
教科書とノートを出して、白紙までノートをペラペラとめくる。ノートを取るのが下手なのですぐに最新まで辿り着く。
勉強ができないぼっち…人気は出ないだろうな…。
なんで逐一人気出そうなキャラになれないか検討してるんだ私。
いつものように心の声は饒舌で、脳内はどうでもいいことばかりで溢れかえっている。
約束通り、昼休みに先輩は私を訪ねてきた。
「全く場所言ってなかったのによく分かりましたね」
「そりゃもちろんあのあとずっとつけて…ゲフンゲフンテレパシーで電波を受信したからね!」
「サボりってそんなに暇なんですか…」
半ば引いた目を先輩に向けたが、多分先輩は理解していないようだった。
「とにかく!私の探してる人は!多分!女の子!で、14歳で…アクセサリーとか作るのが好きな女の子…のはず!…今でも好きならだけど」
「そんな趣味の特徴言われても…それに飽き性なんですかその人」
「分かんない!でもおしゃれするのは好きなはずだからきっと可愛い子を探せばその子がきっとターゲットだよ!」
「まるで暗殺者みたいに言いますね」
「その発想はなかった!」
「冗談ですよ」
「分かりにくいよ君〜。あ、そういえば君名前は?聞くのすっかり忘れてた」
「今ですか…私は…」
「あっ!見て!あの子可愛い!」
「ちょっ、人の話遮ってナンパの相手探さないでください…あ、ターゲットの話か…言い方がややこいですなんとかしてください」
「いいから行くよ!」
「いやいや、先輩1人で行けばいいじゃないですか」
「いいからー!」
ありえない力で私の腕を引っ張る先輩。流石にこんなことで腕とお別れはしたくないので、先輩と同じ速度で同じ方向へ走る。
「ほら!これ持って」
先輩は走りながら手紙を渡してきた。
「えぇ〜…なんで私が…」
完全に「君が話しかけてね」という顔で手紙を渡してきた。
こちとら陰キャクソぼっち非リアだぞ。そんな簡単に話しかけられるわけないだろ。
「…ん、もしかして私に何か…?」
「…っぁ、…えっと…これ…もしかしてあなたに宛てた手紙かな…って…」
「手紙?」
相手から強制的に会話のステージに引っ張り上げられて、喋らざるを得ない状況になる。
完全に私変なやつだぞこれ。
…元からだけど…。
「え!懐かしい!花ちゃんからだ!あなたもしかして花ちゃんの友達なの?」
「…花ちゃん?」
「小学校の四年生までずっと同じクラスでね、花ちゃん、途中で引っ越しちゃってね。でも私に引っ越しの話してくれてなくて…。別れも言えずにバイバイだったから…嫌われたと思ってた…でも花ちゃん私がここにいるの知ってたんだね…!」
「…手紙をわざわざ出すくらいですから、嫌ってないでしょうね」
「…うん!ありがとう!そういえば花ちゃんとはどこで会ったの?」
「どこでっていうかなんかある人に頼まれて手紙を届けたいって人が私に手伝ってって言ってきて…」
「じゃあ、あなたっていうよりもその人が花ちゃんの友達ってことかな」
「多分そうですね」
「じゃあその子はどこに?花ちゃんが今どうしてるか聞きたいの」
「どこにいるって…さっきその人とここに来ましたけど…」
さっきから全然気配がないと思ったら、あの変な先輩は私の後ろにも左右にもいなくて、元からいなかったかのように、廊下は静まり返っていた。
「どっかに消えちゃったみたいです」
「…もしかして私には会いたくないのかなぁ…」
「そんなことないと思いますけどね…変な人でしたし」
「あははさすが花ちゃんの友達」
「それ褒めてます?」
「花ちゃんは変で面白くて優しい子なの。だから友達も変で優しい子が集まってくるんだろうなぁって」
「それだと先輩も変ってことになりますよ」
「うん!私も食パンの耳を千切って焼かないで食べるっていう変な趣味持ってるから変仲間だよー」
「…変…ではありますね…主にベクトルが…」
「はっきり言うね…君もきっと変仲間だね!」
「いや私はその人の友達では…」
変というところは認めるけれど…。
「とにかく!この手紙を届けてくれたお礼!今これしか持ってないけどあげる!」
先輩はポケットからいくつか個包装の飴を取り出す。
「何の味がいいー?」
「じゃあそのいちごで…」
「おっけー!」
「…ありがとうございます。飴もですけど…手紙届けないと呪われるところだったんで…」
「その子怖いね」
「はい」
「でも呪うって言っても結局呪うつもりはないと思うよ。変で優しい子だから!」
「類友じゃないケースもあるとは思いますけど…」
「そういえば君に名前は?」
「え、あ…私は…」
名乗ろうとすると先輩の後ろから誰かが小走りで近づいてくるのが見える。
「あっ!七海!ここにいたんだ〜」
どうやら先輩の友達のようだった。
そういえば、今日は私が名乗ろうとすると何かしら邪魔が入る日だな…。早くも呪われた?変な方の先輩にも結局教えられてないし。
「あ、舞ちゃん。聞いて〜小学生の時、四年生まで花ちゃんって子がうちの学校にいたじゃん?」
「あーよく三人で遊んでたね。」
この先輩の友達は小学生の頃からの友達なのか…いいなぁ幼馴染…。
幼馴染って結局友達を幼少期の頃に作れないと発生しない概念だから私には関係ないからなぁ…。
「でも花ちゃんって引っ越したよね?…まぁあれは本当は理由があって引っ越しって言われただけだけどね…」
「えっあれ引っ越しじゃないの?」
「七海、知らないの?花ちゃん交通事故で亡くなったって中学に上がってから保護者経由で知ったんだけど…」
「えっ、う、嘘だよだって手紙だって来てたし…」
「え、それの方が嘘だよ。4年前に亡くなってて…こんな時間をかけて七海に手紙が来たってこと…?」
先輩たちの会話を聞くうちに、だんだんと背筋が冷たくなってきた。なんだかここにいたくない。
きっと七海って先輩から出てくる次の言葉が何となく予想がつく。嘘つきだと、私が責められてしまう。
あの子が、確かに私にこの手紙を先輩に渡せって言ってきたのに。
私は、頼まれただけなのに。
「…待って!」
無意識に後退りしていた私を七海先輩が呼び止める。
「…もしかして、君が出会った子は、花ちゃん?」
「そ、そんなわけ…」
そういえば、あの変な先輩が他の人と喋ってるところを見てない。
それはただ先輩と一緒にいる時間が少ないから見なかっただけだと思ってたけど、私の席を奪った先輩に誰も興味を示さなかった。その時はただ単に私が蔑ろにされるのは当たり前のことだからだと思ってたけど、もしかしたらがあり得るの?
「…七海先輩のことをアクセサリーを作るのが好き、おしゃれが好きってあの先輩は言ってました。今も好きならとも」
「…!花ちゃんと一緒にアクセサリーを作ったことがある!やっぱりその子が花ちゃんだよ!花ちゃん誤魔化すのすごく苦手な子だったから、手紙を渡す理由も、誰かに頼まれたからって適当なことを言ったんだ!」
「そういえば依頼主から誰に渡せってことを聞いてないって適当なこと言ってたような…」
「花ちゃんがこの学校にいたんだね!」
「でも幽霊なんているわけないですよ。それこそ変ですよ…」
…いや間違えたかも。これを言うべきじゃなかった。
「うん!変仲間なんだから当たり前!」
「…優しすぎますよ先輩」
変で優しいっていうのは、こういうことを言うんだな…。
「あ、これ当時の字で書いてある」
「小学四年生の字ですねこれは…」
「七海も小学生の時はちょー下手くそだったでしょ」
「それは言わないの!」
全く壁を感じずに、初対面のはずなのに、友達みたいに私たちはしばらく喋った。
放課後、花ちゃん先輩が姿を現すことはなく、おそらく「放課後まで」というタイムリミットは本当のことで、今日しかタイミングが先輩にはなかったんだろう。
そういえば、七海先輩たちとはあの後、さりげなく先輩たちの陽キャオーラのおかげでLINEの交換に成功して互いの名前が分かったわけなのだが…。
「言いそびれたな。花ちゃん先輩に」
幽霊に名前を呼ばれると良くないことが起きるって話をどっかで聞いたことがある。もしかしたら先輩は名前を見切り発車で聞いちゃったけど、それを途中に思い出して、無理やり遮ったのかも。
別にあの時の七海先輩は立ち止まってたし、急ぐほどのことじゃなかったとも思える。
変で優しい。変な先輩。
出会うのが生きてる時だったら良かったのに。
私の初めての友達かもしれない人が出来たのに。
〜ハロウィンの独り言・完〜
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