オール・フォー・ワンマイク
みやじ
第1話 エピローグ
照明が舞台を激しく燃え輝かせている。眩んだ視界の先には対戦相手が立っている。この一戦が終われば今日の栄光が決まる。MCバトル甲子園────高校生のラップバトル日本一が、もうすぐ決まる。
歓声が鳴り止まないのは分かる。けれど、それは遠くから聞こえる。他人事のようだ。呼吸が浅く、しかし激しい。マイクが滑りを帯びている。力加減を確かめようとするも、手が言うことを聞かない。心拍音が耳元で鳴っている。
目を強く瞑った。
「ドブネズミみたいに強くなりたい。痛みの雨の中、ずぶ濡れでも笑っていたい。それができる奴が一番強いから」
呪文のように唱え、僕はサングラスをかけた。
「そうだろ。『ドブネズミ』」
独り言ちる。いつの間にか呼吸は深く、静かになっていた。
「決勝の舞台に相応しいMCを紹介しよう────『
司会者が僕の名前を呼ぶ。歓声が大きくなる。今度はハッキリと聞こえた。足を踏み出し照明に晒される。
「続いて対戦相手はこのMCだ────『skullullaby(スカララバイ)』!」
歓声がさらに大きくなる。
「先攻後攻はすでに決まっております。先攻は存火。後攻はskullullaby。8小節×4ターン。この決勝の舞台で勝ったMCが高校生日本一の称号を手に入れます」
対戦相手と向かい合う。彼と戦うのは初めてではない。以前と違うのは、今、立ち向かっているのが僕一人だけ、という点だ。
「皆さんっ! チャンプを決める準備はできてるかぁっ!」
観客の熱狂は最高潮に達している。今にも爆発しそうな興奮が充満している。対照的に、相手は口を真一文字に引き締め、冷静に僕を見据えている。もう言葉はいらないか。だって、これから交わし合うのだから。
「それでは始めましょう! 先攻、存火! 後攻、skullullaby! 8小節×4ターン! Ready────Fight!」
スクラッチが鳴る。僕は────
マイクを右手で握りしめ────
唇に近づけ────
深く息を吸い込み────
バイブスを、ぶち込んだ。
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