第8話 エピローグ3


 ノアは瓶ごとロラが眠る寝室に連れられて行った。

 まさか僕の前で夫婦の営みを見せる気か?

 ノアの怒りで瓶が震えたが、ヴィクトルは続きの間にいた老人を部屋に招き入れた。


 呪文が始まり、瓶の蓋が開く。渦巻に巻き込まれたように回転しながら、ノアはロラの腹へと消えていった。

 十か月後、赤子が難産の末に生まれ、苦しんだロラは赤子の顔を見ることもなく、帰らぬ人となった。

 もし、赤子を見る時間が残されていたとしても、弱った心臓はきっとショックでとどめを刺されたに違いない。赤子は、それくらいロラが陥れた男の面影を留めていたのだから。


 ヴィクトルが赤子を抱き上げて、お帰りと囁く。青い瞳に溢れる涙が、赤子の上に降りそそいだ。


「ノア、覚えているかどうかは分からないが、お前の名前はノアだ。お前を騙して殺した王女は、お前自身で仇をとった。強い子だ」


 呪うべき女の腹にいるときに、ノアは王女の独り言を聞いていた。

〚ヴィクトルの子供を授かったから、もうヴィクトルは私を人殺しだと罵れないでしょうね。私に冷たい仕打ちをした分、これからは顎で使ってやるわ〛


 王女の勝ち誇った言葉に、ノアはヴィクトルが裏切ったのではなかったことを悟った。

 ノアは喜びで動きまわり、ロラは臓腑をかき回される不快さで苛いた。

 ヴィクトルに再会できる日を、ノアはずっとずっと待ち続けた。暗がりからもがき出て、ようやく明るい場所へ。


 生まれかわりのせいか、ノアは生まれてすぐに目を開けることができた。

 記憶と同じ青い瞳が、ノアを愛おしそうに見つめている。唇が小さなノアの額に優しいキスを落とした。


「ノア、俺は今度こそ、愛するお前を生涯かけて守ると誓う」


 ノアは小さな手をヴィクトルに伸ばした。

 これからは、誰に邪魔されることなく一緒にいられる幸せに、ノアのバイオレットの瞳がきらきらと輝く。

 ノアは小さな手で、ヴィクトルの太い指をぎゅっと握って、再会の喜びを伝えた。


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騎士の誓い マスカレード @Masquerade

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