# 1

 Apr.15th am 8:15

 side 雲川歌くもかわうた


「2人とも、朝から喧嘩しないでくれる?耳障りなんだけど。市宮も三咲も、私に構わなくていいから。」


 クラス名簿にざっと目を通した時に、同じ名前だ、と少し気になっていた生徒が、初登校日にそう言った。


 正直僕はびっくりしたけど、彼女が廊下に出ていくのをこっそり追った。


 彼女は、どうやら窓から屋上へ飛べるくらいの驚異的な身体能力の持ち主だということが分かった。


 クラスの中で存在感があまりない僕は、階段を上がり屋上へ向かう。

 本来は生徒は昼休み以外立ち入り禁止なのだが、構わずに進む。


 屋上へ続くドアは鍵がかかっていたが、このくらいの鍵なら簡単に開けられる。ポケットから鍵開けの道具を出して、かちゃかちゃと慣れた手つきで解錠する。


 彼女は、屋上端のベンチに寝転がっていた。


 僕はその様子をしばらく見つめる。


 へぇ……意外と、面白い奴だな。


 彼女は僕の好きなタイプそのものだった。


 ベンチにそっと近づこうとした時、彼女のスカートが風で翻った。

 僕は思わず立ち止まり目を背けたが、屋上に誰もいないと確信している彼女はスカートを直そうとしなかった。


 このままじゃ話しかけられないと思い、僕はなるべく音を立てないように屋上をあとにした。


 ホームルームにはぎりぎり間に合ったが、詞は全然来なかった。一限から来るらしいよ、という噂も流れていたが、三咲凛菜は興味のなさそうに爪をいじっている。


「凛菜、さっきの言い方はさすがに…」

「は、歌にも言われるなんて……」

「さすがに傷ついたんじゃ…」

「わかったわかった、あとで謝るから〜」

「………」


 僕と凛菜はいとこ関係にある。仲がいいわけでも悪いわけでもないから、たまに話すくらいだ。


 凛菜の親…僕の母の姉は、性格がだいぶ曲がっている人だ。凛菜も、それにつられて同じような性格になってしまったのだろう。


 一限、凛菜などの理系コース組は理科、僕などの文系コース組は歴史の授業だった。詞も文系コースらしく、僕の隣の席に座っていた。


「はじめましてだよね?」

 まるでさっきまで何もなかったかのように、彼女は僕に話しかける。

「あ、うん。僕は、雲川歌。よろしく」

「歌?」

「まあ、僕は、普通に歌って書くんだけどね。一応言っておくと、凛菜のいとこだ。」

「え、そうなの……あ、よろしく、雲川。」


 初対面で苗字呼び捨てとは…なかなかに興味深い、面白い奴だな、と思った。こんな人に出会ったの、いつぶりだろう。思い出したくは、ないけど。


「ふ…よろしく、詞」

 思わず笑みがこぼれてしまったのは見逃して、僕も負けじと呼び捨てで呼んだ。


 詞は少しも驚きもせず、むしろ僕と同じように、〝面白い奴〟だとでも思っているような顔をしていた。


「ちょっと笑ってる?」

 僕は気になって聞いた。

「いや、初対面で呼び捨てするのが、少し面白くて。」

「それは君も同じだろ」

 彼女は少し赤面していた。それも、全部、面白いと思った。


 僕にとって、本当にタイプの人間だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

うたえないうたへ。 ゆうり1412  @yuuri-33

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ