第6話 そんな装備で大丈夫か?
探索登録を行った後はダンジョンへ続くセキュリティドアに探索者ライセンスをかざせば、いよいよダンジョン探索が始まる。
「そこの君! 少しいいですか?」
セキュリティドアに向かっていると、協会の人間だろう人が声をかけてきた。20代後半くらいの若いお兄さんだ。
「なんですか?」
「今回の探索はダンジョンの加護を受けるのが目的ですか?」
ダンジョンに入ると自身のステータスなどが見れるようになる。それをダンジョンの加護と呼び、ダンジョンの加護を受けるために15歳を迎えた中学三年生は一度ダンジョンに入るのだ。鈴鹿の誕生日は平成6年6月6日の恐怖の日であり、鈴鹿もダンジョンの加護を受けに父親と訪れていた。
ダンジョンの加護は基本保護者同伴で行う行事であり、親がモンスターを討伐して子供にいい格好を見せるという親にとっても重要なイベントだ。ただ、保護者が必須というわけではなく、友達同士や一人でダンジョンの加護を受けに来る子もいる。
「いえ、加護は既に受けています。今回は1層1区の探索をするためにここに来ました」
「探索……ですか。では、探索するうえで何か良い情報を提供できるかもしれませんので、少しお時間いただけませんか?」
そう言うと、男性は5分もかからないからと近くのベンチに腰掛けて隣に座るよう促した。
きっと彼はお節介を焼いてくれているんだよな。15歳になったばかりの子供が一人でダンジョンに入ろうとしているんだ。止めはしないけど、死なないように何かアドバイスでもくれるのかな?
そう思い、素直に彼の横に座って話を聞くことにした。この世界の記憶に加え、昨日一日ダンジョンについて調べたがその程度しかできていない。有益な情報を得られるかもしれないしと、鈴鹿はベンチに腰掛けた。
「まず初めに、探索を行うとのことですが、ご家族やご友人とのパーティで探索をされるのですか?」
「いえ、一人です」
「失礼ですが、年齢とレベルをお伺いしてもよろしいですか?」
探索者にレベルを聞くのは推奨されていない。探索者同士は常に揉め事に気を張っている。レベルやステータスが周知されてしまえば、より高レベルな探索者の餌にされるリスクがあるからだ。だが、鈴鹿のように冒険者になりたての子供ならばレベルもたかが知れており、そこまで気を使うこともない。
「15歳の中三です。レベルはまだ1です」
「ありがとうございます。ではそのレベルでの適正モンスターはご存じですか?」
「群れていない
「そうです。そこで
酩酊羊も茶釜狸も1レベルから倒せるモンスターだ。しかし、茶釜狸は稀に化けることがある。化ける先は同じ1層1区のモンスターである
「探索者を目指すなら探索者高校、レベルを上げるのが目的でしたら育成所もありますがご検討はされましたか?」
「はい。それを検討した結果、今ここにいます」
ダンジョンに入る者は何も探索者を目指す者たちだけではない。レベルが上がればステータスの恩恵を受けられる。育成所とは、そんなステータスの恩恵を受けるために、比較的安全にレベリングが行えるレベル10まで、レベル上げをサポートしてくれる教室の事だ。自動車教習所のようなものである。
一方探索者高校はその名の通り探索者となるための職業高校だ。探索者を目指すほとんどの学生は探索者高校に通う。今活躍している探索者のほとんどが、探索者学校の卒業生だと言われているくらいだ。
探索者高校に通うメリットは大きく、探索者としてのいろはを丁寧に学ぶことができるだけでなく、武器や防具の貸し出しや探索時の教師の引率まである。もちろん高校生だろうと不慮の事故が起きれば命の危険を伴うダンジョンだが、卒業するころには探索者として初心者から抜け出すレベルまで成長することができるのはとても大きなメリットだろう。
探索者高校は探索者協会が提携していることもあり、授業料が公立高校と同程度ということも魅力の一つである。
だが、それは高校の話。鈴鹿が通うとしたら半年以上先の話になる。鈴鹿は今ダンジョンに入りたいのだ。受験するかしないかはその時決める。
「承知しました。最後に、武器はそちらをご使用されるのですか?」
職員が指さす先には、鈴鹿が肩にひっかけている獲物、野球で使う金属バットがあった。少年野球をしていた時の物だ。中学では違う部活を選んだため押し入れで埃を被っていたのを、引っ張り出してきたのだ。
「お金はかかりますが、ギルドでは初心者用の貸し出し装備もございます。武器はもちろん防具もありますし、同伴者が必要になりますが銃の貸し出しもございますがお使いになられますか?」
この世界でも日本では銃刀法違反はあり、各家に拳銃が置いてあることなどない。ただし、ダンジョンにおいては安全にモンスターを倒すことができるため使用が認められている。養成所でのレベル上げも銃を使ったものが主流だ。
もちろん子供が簡単にレンタルすることはできず資格保有者が同伴する必要があるが、元の世界の日本と比べれば銃の取り扱いのしやすさは段違いだ。
鈴鹿の格好は学校の指定ジャージ。武器は金属バット。とてもダンジョンに入るような恰好ではない。だが、この格好は鈴鹿なりに考えた結果の軽装備である。盾くらいは借りたいところだが、当初の予定通りこのままダンジョンへ挑むつもりだ。
「大丈夫です。このまま探索します」
さすがにその装備でほんとに挑むと思っていなかったのか、鈴鹿の返事に職員は一瞬驚いたような表情を浮かべた。
「金属バットで……? さすが八王子……」
「八王子がどうかしましたか?」
「いえ、失礼しました。何でもございません」
思わずといった感じで職員はボソッと何かつぶやいたがうまく聞き取れなかった。八王子ダンジョンなら大丈夫かとかそんな感じだろうか?
最初は正気か?という顔をしていた職員だが、ダンジョン探索を行う上で探索者の意志は何よりも尊重されるもの。これ以上は無粋だと、職員もそれ以上装備について言及してくることはなかった。
「お時間を頂戴しありがとうございました。あなたに英雄の加護があらんことを。頑張ってください」
そう言って一つ頭を下げると、彼は職務に戻っていった。
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