第8話 同棲のお話
そして、玄関を開けると真っ暗な空間が広がっていることに気づきました。
不審に思いながら電気を点けると、そこには見慣れない靴がありました。
しかもサイズ的に男性のものだと思われます。
(泥棒……?)
恐怖を感じつつも警戒しながら奥へと進んで行くことにしました。
そうすると、リビングに明かりが灯っているのが分かりました。
恐る恐る覗き込んでみると、ソファーの上で横になっている人物の姿がありました。
よく見るとそれは父親だったのです。
どうやら酔っ払っているらしく鼾を掻いて眠っていました。
その様子に拍子抜けしつつも、安堵の溜め息を吐いたのです。
(よかった)
そう思いながら台所へ行き、冷蔵庫を開けると大量のお酒が収納されていることに気づきました。
(え?)
信じられない思いで凝視しているうちに一つの仮説が浮かんできたのです。
(まさか……!)
慌てて寝室に向かうと、予想通り布団の中で寝息を立てていました。
(やっぱりか)
落胆しながら部屋に戻るとベットの上で、仰向けになって天井を見上げていました。
そして、目を閉じると先ほどのことを思い出してしまったのです。
(まだ付き合ってると思っていたのかな?)
そう思った瞬間、涙が流れ出て止まらなくなってしまいました。
嗚咽を漏らしながら号泣すると、次第に疲れが出てきたので眠ることにしたのです。
翌朝になると自然に目が覚めました。
時計を見ると午前5時過ぎであり、早起きできたことに気分良く起き上がると、着替えを済ませて朝食を作る準備に取りかかるのでした。
出来上がると二人分の食器を使って盛り付けます。
そして、完成するとダイニングテーブルに運び食べ始めました。
しばらく無言で食べ続けた後に新聞紙を広げて読み始めます。
ニュース記事を読んでいるうちに気になる項目を見つけたのです。
そこには、新種のウイルスについて書かれていました。
特に被害は報告されていないようですが、予防接種を行う必要があるらしいのです。
(面倒だけど受けに行かないと)
そう思いながら咀嚼していましたが、ふと視線を感じて顔を上げると両親の姿があったので慌てて誤魔化すことにしたのです。
「お、おはようございます」
「おはよう」
二人揃って挨拶を返してきたので安心しました。
それから暫く雑談をしながら、朝食を食べ終えると片付けを済ませて学校に向かうことにしました。
玄関を出て歩いている途中で、同じ方向に向かうクラスメイトと遭遇しました。
「おはよう」
そう言って挨拶を交わし合うと、目的地に向かって進み続けます。
やがて学校に到着すると下駄箱で靴を履き替え、階段を登って教室を目指しました。
廊下を歩いている最中に前方から見知った顔が歩いてくるのが見えました。
「あ、あの!」
咄嵯に声を掛けると驚いた様子で振り返ったので、慌てて謝罪することにしました。
「すいません急に呼び止めてしまって、用事があるわけではないのですが……」
言い訳じみた発言をしてしまい後悔しましたが、相手は気にする様子もなく返事をしてくれたのです。
「こんにちは」
その言葉を聞いて嬉しくなったのですが、同時に照れ臭さもありました。
ですので、平静を装って話しかけることにするのでした。
「最近調子はどうですか?」
「まあまあかな、莉桜花は元気ないみたいだけど平気?」
そう言われて気づいたのですが、確かにここ最近体調を崩しがちな気がしていました。
多分ストレスのせいだと思うのですが、具体的にはわからないので答えようがありませんでした。
(どうしよう)
困っていると助け舟が出されました。
「悩み事があれば聞くよ」
その提案に対して、遠慮せずに相談することにしました。
まず初めに、家族との関係性について話すことにしたのです。
そうすると、納得したような表情を見せた後にアドバイスをくれました。
「あまり無理せず、たまには甘えるのも大事ですよ」
その言葉を聞いて勇気づけられた気がしたので礼を述べることにしました。
「ありがとうございます」
頭を下げると、
「気にしないで」
そう微笑みながら言ってくれたので嬉しくなりました。
それから暫く他愛もない世間話を楽しんだ後、それぞれの教室へと向かうため解散することにしたのです。
(この人良い人だな)
そう思いながら過ごすうちに放課後になりました。
帰宅の準備を整えている最中に、担任の教師から呼び出しを食らってしまいました。
理由は分からないままでしたが、大人しく従うことにします。
職員室に入ると、机に向かって作業を行っていた女性教諭が顔を上げて声を掛けてきました。
「あら、いらっしゃい」
その態度に困惑しつつも平静を装います。
「あの、私に何か御用でしょうか?」
「実は伝えたいことがあるのよ」
そう前置きされてから、告げられたのは衝撃的な事実でした。
何と父親が事故死したという知らせだったのです。
あまりのショックに一瞬理解が遅れてしまい茫然自失となってしまいましたが、何とか平静を取り戻すことができました。
それから葬儀に関する手続き等を説明され、最後に父親宛ての遺言書を託されたのです。
それを受け取ると、後は任せると言われてしまった為に渋々承諾することにしました。
(どうしてこんな目に遭わないといけないんだろう)
内心で嘆いているうちに時間が経過していたようで、いつの間にか解散の時間が迫っていたことに気づきました。
帰り支度を済ませて家に帰る途中でスーパーに立ち寄ることにします。
買い物を済ませて袋詰めをしている際に偶然にも、母親と遭遇しました。
「あら、奇遇ね」
「お母さんこそ珍しいね」
そんな会話を交わしながら、レジを通すと駐車場まで移動します。
車に乗り込み発進させる寸前に助手席に座っていた彼女が口を開きました。
「ねえ、貴方高校卒業したら進学するつもりはある?」
唐突にそんなことを訊ねられたので戸惑いましたが、正直に答えることに決めました。
「今のところはまだ考えていなくて……」
そう告げると、彼女は苦笑いを浮かべながら話しかけて来ます。
「そう、もし悩んでいるなら親戚が経営している大学に行ってみるのはどうかしら? 推薦入試制度もあるから簡単に入れると思うんだけどどう?」
その提案に対して少し考える素振りを見せながら、即決できない旨を伝えることにしました。
「少し検討させて下さい」
その答えに満足した様子で頷くと、再び前を向いて運転を続けるのでした。
自宅に到着すると夕飯の準備を行うことにします。
冷蔵庫を開けて食材を取り出していると、後ろから声を掛けられました。
振り返るとそこには母親の姿があり、ジロジロとこちらを観察している様子でした。
(なんだろう?)
不思議に思って黙っていると痺れを切らしたのか、話しかけてきたのです。
「ねぇ美月さんの事をどう思っているの?」
その質問に一瞬ドキッとしたのですが、平静を装って答えました。
「大切な幼馴染みだと思ってるよ」
そう返答すると、何故か悲しそうな表情を浮かべたのです。
(何であんな顔するんだろ)
そんな疑問を抱いているうちに再び口を開いたので、続きを待つことにします。
「その割には随分親密そうに見えるわよ」
そう言われた瞬間、頭の中が真っ白になったのです。
(バレてる……?)
そう思った次の瞬間には否定しようとしていましたが、それより早く言葉が出てしまいました。
「違うよ、勘違いだよ」
必死になって弁明すると、興醒めしたと言わんばかりにため息を吐かれてしまいました。
「まあいいわ、邪魔して悪かったわね」
そう言うとキッチンを出て行ってしまったのです。
一人取り残された状態で呆然としていると、我に返ったような感覚に襲われました。
(まずい状況になっちゃったかも)
焦燥感に駆られながらも、まずは冷静になるために深呼吸を繰り返すことにしていました。
それが功を奏したのか、段々と落ち着きを取り戻すことができたので作業を再開することにしました。
それから暫くして料理が完成すると、皿に盛り付けてダイニングテーブルに並べていくのです。
準備を終えて着席すると二人揃って食事を開始します。
母親と私は何も話さず、黙々と食事じていると母親が喋りだします。
「美月さんの事を好きなら同棲でもしたらどうなの? お母さんがお金出すからさ、
まだお互いに学生だけど、それでも好きならどうかなってね」
その言葉に驚きながらも冷静に対応することにします。
「いや、いくら好きだとはいえ同棲はちょっと早いんじゃないかな?」
その言葉に納得した様子だったので内心ホッとしていました。
しかし、それは杞憂に終わったようです。
何故なら次の瞬間には爆弾発言をしてきたのですから!
「それに私も賛成だし、なんなら私も協力するわよ!」
あまりの出来事に固まっていると更なる追い討ちが掛かるのです。
「そ・れ・と! もし仮に付き合っていないとしても問題ないからね」
「えぇ?!」
(マジで言ってんの!?)
衝撃のあまり言葉を失ってしまいます。
一方、母親の方は上機嫌で話し続けるのです。
「美月さんの連絡先知らないから連絡したいんだけど教えてもらえない?」
そう言われてハッとなってポケットの中を漁ります。
すると、目的のものはすぐ見つかりました。
(これを渡せばいいのかな?)
半信半疑になりながら手渡すと早速電話を掛けるようでした。
(やばいどうしよう)
そう考えているうちに相手が電話に出た模様です。
「あっもしもし! 急に連絡してごめんなさいね、実は娘のことなんだけどお願いがあって……」
そこから先の会話は全く耳に入ってきませんでした。
何故なら気が動転してしまっていたからなのです。
「じゃあ今週末で決定だからまた連絡しますね! では」
どうやら無事終わったようです。
放心状態で見守っていたのですが、そこで漸く現実に戻ることができたのでした。
その後の記憶がないぐらい呆然としていました。
気づけば、自室のベッドの上で寝転がっていました。
時刻は深夜0時を過ぎており、辺りは静寂に包まれています。
(まさか本当に許可が降りるとは思わなかった)
そんな風に考えながらも就寝しようと試みるのですが、なかなか睡魔が訪れてくれません。
結局、眠ることが叶わず夜明けを迎えてしまいました。
瞼が重くなり視界が、かすんできたため目を擦っています。
そして、目の前の景色が歪む程度まで疲労が蓄積していったように思います。
(まだ午前8時なのに怠いよぉ)
仕方が無いので二度寝しようと試みたのですが、それが仇となって寝坊してしまう羽目になるのでした。
そんなわけで現在進行形で走っている最中だったりします。
全力疾走で駆け抜けていくとあっという間に学校近くまでやってきていたようで、ちょうど門の近くに差し掛かるタイミングでチャイムが鳴り響きました。
「やばい間に合わない」
独り言を呟きつつも速度を維持するよう努めます。
最終的に何とか滑り込みセーフとなることができましたが、かなりギリギリだったので汗だく状態になってしまいました。
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