茜色のブラッド
椎名まじめ
1
「あなたは、人を殺したことがありますか?」
この質問に、イエスと答える方が、世界中の何割を占めるのかわからない、というか想像もつかないけれど、ただひとつだけ言えるとすれば、私はイエス、と答える側の人間だ。そして、この話をもう少し進展させるとするならば、ふたつ以上の生命を亡き者にした人は?という問い。
それにも私は、眉をひそめることもなく、イエス、と答える。
ここで私について興味を持ったならば、あなたは少なくとも選ばれた人間だと誤解を恐れずに言うことができる。紹介することができる、私って奴を。
葛葉あかね。十六歳。所謂、女子こーこーせーってやつだが、その響きからは想像もできないほど、苦く、錆び臭い、血液を頭から足の先まで浴びたような、いやそのまんまな、酷く残酷な人間なのだ。残酷な天使のテーゼ?なのだ。
そんな私だけど、生まれたその瞬間から今の人格が形成されたわけではもちろんなく、幼少の頃はそれはそれは純真無垢な可愛いかわいい女の子だった。
今の私を知っている人間からすれば、失笑を禁じ得ない話だけど、ある転換期を経て━━、ある人物との邂逅から始まったように思う。いや、始まったのだ。
━━人はそいつを『レッドマン』と呼んだ。
彼?はとにかく好戦的で獰猛な、人間というより、獣と呼んだ方が正しいような、そんな抜き身の刀みたいな人物だった。
そんなレッドマンとの出会いは、私が小学五年生の頃。
学校が終わって、私は帰路についた。ひとりで。ひとりっきりで。だから、そこを狙われたといってもいいが、まさか私にそんな危険が迫る可能性も運命にも、思考も行動も至ることもなく……。
私は十字路を左へ曲がった、瞬間に後ろから、がばっと何者かに抱きつかれた。そこはそれ、小学生、しかも女の子に振りほどけるほど弱い力ではない。もがいてももがいてもびくともしない、そんな強靭な強さ。
そして私はそのまま地面に組み敷かれられ、仰向けに転がされた。そのときに相手と目が合う。
世間一般的に見て、醜悪と呼んで差し支えのないようなくたびれたオヤジだった。気持ち悪い。そのオヤジの手は、左手を私の口に、右手が私の慎ましやかな胸をまさぐってくる。今から思い出しても、トラウマ級の体験だ。事件だ。
ブラウスを引きちぎられ、私の目から涙がスコールのように溢れ、まさに絶望しかけた、そのとき━━
オヤジの人生は終わりをつげた。
その死を招いたのが、レッドマンだった。
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