昼　東海大学キャンパス内の中央広場

　いつものざわめきに包まれている。講義を終えた学生たちは、芝生の上でピクニック。ベンチではどこもかしこも学生がおしゃべりに夢中。そんなベンチの群れの一角。

　｢かみやまふうか。やっとゼミに来たんだ｣

　｢うん。あと午後のコマ終わったらゼミのプレゼン資料作るんだけど、叶華もよかったら見てくれないか｣

　珍しい。英一らしくない。ゼミで早速かみやまふうかと何かあったな。。。

　｢分かった。この前、私も講義の課題でプレゼン資料作ったんだけど、その時に参考書をいくつか買ったから、お昼休みに取りに帰るね｣

　｢え！叶華。オレのためにサンキューな！｣

　本当にそうだよ。。。

　｢まぁ実際はついでよ。今7月でしょ？インターンシップとか就活の準備のための参考書をいくつか欲しくて｣

　｢就活？！まだ選考まで1年以上あるじゃあないか！オレらって就活ルールが去年から後ろ倒しに変更になったラッキーボーイ世代やろ（2016年卒当時）？まぁオレもマメに企業情報とか、平均年収がいくらだとか、調べてるけどさ｣

　｢就活は企業情報だけじゃないよ。夏のインターンシップがそろそろ始まるし。まずは自己分析しなきゃでしょー。それから和雄はメガバン志望でしょ？メガバンは金融業界だよね。業界研究もしなきゃ。メガバンや損保以外にも、信託や証券、地銀や信金もあるしね。私は損保の損サ（損害サービス·損害サポート部門）とか保サ（保険金支払サービス部門）とかかなー。自分が営業するより、事故のときお客様と直接向き合うのとか、興味ある｣

　｢叶華スゲー。オレはやっぱりメガバン総合職かな。海外駐在志望。そんで白人と結婚する｣

　。。。まぁ、海外駐在っていう具体的な、エリートコースの目標があることはいいか。

　｢素敵ね｣

　｢じゃあとりあえずまた夕方ぐらいにI棟前集合ね！｣

　昼休み　東海大学キャンパス近くの書店

　海外駐在。。。キャリアパスは2ヶ店目で、海外事業関連の部署へ異動。入行後10年程度で打診ね。駐在時は手当が追加され、年収は1,500万円～2,000万円以上になるのが一般的。語学力だけじゃなくて、専門性、適応力、実績とリーダーシップが必要なのね。

　大丈夫。。。入行から10年間もあれば、英一と結婚できる。

　夕方　東海大学　I棟前

　｢。。。思ったよりどこの教室も混んでるわね～｣

　｢もう7月だってのに、1年生もまだ真面目に課題とかやってんだな～。でも大丈夫！オレもう席取ってあるから！後ろの方の席にペットボトルとカバン置いといた。｣

　私達は英一に率いられ、後ろの席に並んで座った。

　｢後ろなら多少しゃべっても大丈夫だろ！ほらオレ声でかいじゃん？カラオケで鍛えられてるからさ～。｣

　英一、声が大きい自覚あるんだ。。。自己分析の素質あるかも。うん。就活も大丈夫そうね。きっと大丈夫。

　私が作業しようとした瞬間、また何かが当たった気がした。いや、そんなハズは無いのだけど。どこかで似たような感覚で、経験したことあるような。

　ふと一番前の席を見ると、大きなグレーの塊が、鎮座しているのが視界に入った気がした。

　｢さーて。いっちょ本気だしちゃいますか～。今回の優秀賞も海外駐在もオレなら楽勝だ。頑張れオレ。｣

　やや大きめな独り言を発すると、英一もようやくPCを起動した。

　｢、、、｣

　ヘッドホンで作業用BGMを流しながら、黙々と最前列で作業する、風花であった。