ひかり

「一華、起きてー」


カーテンを開ける音と一緒に、ままの声が部屋に入ってくる。

まぶしい光が一気に広がって、ベッドの中の私は目を細めた。

「……今日も学校かぁ」

小さくつぶやいた声は、自分でもびっくりするほど重たかった。


学校に“行きたい”と思えない。


ままが出て行ったあと、机の上に置いたあの小さな箱が目に入る。

昨日、スズランの花びらが入っていた箱。

だけど開けたら何も入っていない。

ただの箱のはずなのに、、、、


バスに乗り、電車に乗りいつも通りの登校。

教室に入ると、私のまわりに友達が集まってくる。

「一華、聞いて〜!昨日のドラマ見た?」

「てかさ、また紗良ちゃん出てたよね。ほんと表情管理すごい!」

“紗良”の名前を聞いた瞬間、心のどこかがきゅっと締まる。

私は笑いながら、「あー、あれね!」って相づちを打った。

でも、心の中で思う


――いいよね。全部、持ってる人は。


「ねぇ、聞いてる? 一華〜!」

「うん、聞いてる聞いてる。てか学校だるい〜」

そう言って笑うと、みんなも「それな〜!」って笑い声を上げた。

その笑い声の中で、私はどこか少しだけ遠くにいる気がした。


なんにもなく放課後になる。

廊下を歩いていたら、教室の中から小さなすすり泣きが聞こえた。

覗くと、紗良が一人で机に顔を伏せていた。

声をかけようとして、やめた。

何を言えばいいのかわからなかった。


“あんなに完璧そうなのに、泣くんだ”


嫉妬なのか、同情なのか、わからない。

でも、なんだか痛くて温かかった。


夜。

宿題を終わらせようとして、ふと机の上を見た。

箱が、淡く光っていた。

驚いてふたを開けると、中にはきらりと光る砂のようなものが少しだけ。

「……これ、何?」

触れた指先が、ほんの少し温かい。

その瞬間、昼間見た紗良の泣き顔が頭に浮かんだ。

どうしてかわからない、だけど涙がこぼれそうになる。

心の奥の、乾いた部分に、少しだけ水がしみ込むような感覚。



それが、“ひとつめの光”だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

しあわせさがし LeafofLuck @LeafofLuck

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ