盆栽が趣味です

蓮村 遼

盆栽が趣味です

あぁ、そうだ。趣味でね、盆栽を始めたんです。

どうして今まで気づかなかったんでしょう。あれは素晴らしいものですよ。

未だかつて、こんなに心が落ち着いていた時はありません。

……え? 私の作品をご覧になりたいのですか?

構いませんが……。あなたの好みに合うと良いのですが。




――どうぞ、上がってください。

いつも、あの奥の座敷で……。

? どうしました? 『何か声がする』…?

はて……。っあー! そうでしたそうでした。

実は創りかけの作品があることを忘れておりまして。多分それでしょう。

浮かない顔ですね。どんなものか、想像がつかないと言った顔だ。

ふふっ。まぁ、見ていただければわかりますよ。



さぁさぁ、着きました。こちらです。この座布団を使ってください。

ああ、これはもう、だいぶ終盤ですよ。

あとはこの、余分な、枝をっ切って……。さすがに力が要りますね。

これは、この枝を無くして初めて美しさを取り戻しますから。

ああ。畳が汚れてしまいましたね。あとで拭わなければ……。跡が残りますから。


――これでよしっと……。どうです! 美しいでしょう!! 

やはり引き算の美学は素晴らしい。

表題ですが……、そういえば考えていなかった。どうしましょうか。

……黙ってしまいましたね。一緒に考えてくださるのですか?

ふふふ……。実は、もう決まっているのですよ。これはあれしかないでしょう。 

<ミロのヴィーナス>、これに尽きる。

ああ!なんと美しい!!

ん? 何ですか。『ヴィーナスの名』? そんなものを聞いてなんになるのです。

気になると……。そんなに樹種が気になりますか。

仕方がありませんね。特別に教えて差し上げますよ。


伊勢みふゆ、樹齢24歳。確か、近所のアパートにいて、毎日重そうな荷物を抱えて駅に向かっていました。美しい幹に余計な枝を着けて、見るに堪えなかったのでこうして……。

作品の命は短いですからね。完成直後を見ることができてラッキーでしたよ。

あなたも、お姉さんの光彩陸離こうさいりくりな様を見ることができて感無量でしょう。

ねぇ、美晴さん?

あなたの両腕、邪魔じゃありませんか?

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