第17話 異界の扉、最初の調査地は遊園地跡!
・結成祝い後のカオス
超常研究会の結成祝いは、見事にカオスを極めた。
カラオケボックス――そこは、
『愛と秩序と絶叫の三重奏』が鳴り響く混沌空間だった。
ノア=エルがマイクを握り、神々しいほどのドヤ顔で歌う。
「♪先生への愛を〜時空を超えて〜
広がるビッグバンのキ〜ッス♡!」
アイオネは隣で腕を組み、淡々と分析する。
「その歌詞、熱量が過剰すぎるわ。
愛のエネルギー=エントロピー増大。このままでは宇宙が崩壊する」
「いいえ、崩壊こそ愛の証明です!」
「不合理の極致ね。あなたの歌は宇宙物理への冒涜だわ」
二人の旧神がマイクを取り合う。
(……俺の職業、教師じゃなくて異界のPA係だな)
理人はツッコミと鎮圧に奔走し、
「おい!スピーカーが時空の歪みを生じてるぞ!
音割れじゃなく次元割れだ!」と叫ぶ始末。
店長:「あの、お客様……今、警察に通報しても、
許されるレベルで異音が響いていますが」
神原は頭を抱え、
「先生ぇ!ノアさんの歌で脳内に……
『愛のエコー』が残ってるんですけど!?」と半泣き。
九条は無表情でクラッカーを鳴らしながら、
「愛も秩序も、音波としては芸術的価値がある」と呟く。
赤城だけが腕を組み、冷静に観察していた。
「ふむ、ノア=エルの歌声は周波数帯域が、
人間の可聴域を逸脱している。このまま続けると、
機材が量子的に崩壊しかねんな」
「アイオネの『冷静な分析』がバランスを……
取っているとはいえ、……いや、それはそれで地獄だな」
カラオケボックスは、
一時的に『旧神干渉フィールド』と化した。
結果、理人は(店長と警察への謝罪で全財産を失いかけ)、
SAN値はほぼゼロで、翌朝の登校を迎えることになる。
職員室――愛と秩序の贈り物
理人の机には、ノア=エルが贈った『先生と愛の永遠を誓う♡』。
……そう書かれたロケットが置かれていた。
その隣には、アイオネの手による……
『教師の威厳維持のための合理的時間管理表』」が鎮座していた。
「(この二つが俺の日常を象徴してるな。愛と秩序の板挟み教師、それが俺だ……でも、不思議と嫌いじゃない。 この混沌がこそが『生きてる』感じだ)」
深い溜息をついたその時、職員室の扉が勢いよく開く。
「先生!おはようございます!
今日は愛の遊園地へ行く日ですよね!」
ノア=エルが朝からテンションMAXで突撃してきた。
「ノア=エル、今日はまだ下見だ。
遊園地って言っても閉鎖された跡地だぞ」
その言葉を遮るように、冷たい声が響く。
「教師殿。ノア=エルの愛の混沌を鎮圧すべきです」
「エルダ・アリスが示した二つの調査地――
合理的な優先順位を決める必要があるわ」
ノア=エルが即座に噛みつく。
「愛に優先順位などありません! 愛は常にトップです!」
「だからこそ制御すべきなの。あなたの「愛の時空破壊力」が増幅すれば、
ヨグ=ソトースの眷属を呼び寄せかねない」
再び勃発する旧神口論。神原は机の陰から悲鳴を上げた。
「朝から旧神論争とかやめてください! 日常的平和をください!」
理人は机を叩いた。
「静粛に!超常研究会の規律は――『教師の命令が絶対』だ!」
・最初の任務地は「ドリームランド」
理人が腕を組み、冷静に分析する。
「エルダ・アリスが指摘した二か所――。
ハスターの眷属が関わる『古代都市の遺跡』、
クトゥルフの眷属の影響を受けた『閉鎖された遊園地跡地』だ」
「古代都市は戦闘リスクが高い。
まずは『遊園地跡』で、二人の制御テストを行うべきだろう」
ノア=エルが即座に手を挙げる。
「やったー!先生と遊園地デートですね!観覧車のてっぺんで永遠の愛を誓い、ジェットコースターで愛の暴走を最高潮に加速させます!」
「デートじゃない! 任務だ!
そして遊具を愛の増幅装置にするな!」理人がツッコミを入れる。
アイオネは腕を組み直し、合理的に補足した。
「クトゥルフの眷属が関わる『空間の歪み』は、
私の『秩序の監査』に最も適している。
この選択は、最適解ではないけれど――次善の策として認めます」
神原は若干回復したSAN値で微笑む。
「遊園地……ラブコメ属性が強いフィールド、
……希望が見えます!」
そこへ、赤城圭吾が静かに資料を広げた。
「『ドリームランド』――十年前に閉鎖された遊園地だ。
組織の報告では、夜間に重力と時間の異常が観測されている。
廃墟の遊具が『笑う』――という噂もある。
ただの都市伝説では済まない」
理人は苦笑する。
「(ドリームランド。夢の名を冠した地が、悪夢の入口か)」
九条響はバールを持ち上げながら淡々と言った。
「廃墟に残る遊具の構造美は、
私の審美眼を刺激します。……美しい破壊に備えましょう」
「破壊はするな」理人が即ツッコミを入れる。
・異界の扉、そして愛と秩序のツッコミ合戦
理人が全員を見回し、指示を出す。
「ノア=エルは『愛のエネルギー』を、エルダーサイン強化に。
アイオネは『時空解析』。神原は常識の維持、九条は物理火力。
赤城は後方でモニタリングだ」
ノア=エルが両手を広げて笑う。
「愛の力、フル出力で行きます!」
「出すな!出力制限しろ!」理人は即座に反応する。
アイオネが冷たく言い放つ。
「ノア=エル、教師殿の望むのは『秩序ある愛』。
あなたの愛は時空的ノイズに過ぎないの」
「時空的ノイズですって!?
あなたの冷気の方がよっぽど恋愛を凍らせてます!」
再び爆発する口論。
神原が両手で耳を塞いで叫ぶ。
「先生ぇ! 愛と秩序のツッコミ合戦で、
僕の脳がバグります! 廃墟に着く前に僕のSAN値が廃墟です!」
理人は頭を抱えながらも、
「よし、出発だ!超常研究会、
最初の任務――『ドリームランド』へ出動!」と宣言した。
そして、愛と秩序の旧神、ツッコミ役、
バールを携えた美術命の生徒……
(……それでも、この混沌が、世界を救う一歩になるなら――悪くない)
理性ギリギリの教師を乗せたバスは、
時空の歪みが待つ遊園地跡へと走り出したのだった。
【第18話に続く】
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