ほろ苦い青春の群像劇

うおさとかべきち

入学式

 ほろ苦い青春の群像劇などというものは、神田かんだ健司けんじの経験則上存在しない。

 中学時代の彼の功績は素数を17291まで手作業で数えたことだが、ノートの中の出来事だから誰も知らない。その数字において発掘作業が終了したのは単に飽きたからだという。そして中学校を卒業した。

 高校の入学式の後、クラスでは自己紹介が行われる。

「神田健司です。好きな教科は数学です。よろしくお願いします」

彼は当たり障りのないことを言った。

 自己紹介を完璧に覚えることができる人間などいない。情報が多ければよいというものではない。記憶に残る自己紹介はある。しかしそれは例えば、噛んだとか、変なことを言ったとか、失敗であることが多い。だから、神田の自己紹介は成功であると言ってよい。

林田はやしだ和哉かずやです。お笑いが好きです。好きな芸人は、漫才なら金属バット、コントならダンビラムーチョです。よろしくお願いします」

これを聞いた神田の体がビッと跳ねた。実は神田もお笑いが好きである。彼は小林和哉と話がしたいと思った。

 しかし、二人が交流を始めるのは少し先のことである。

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