第177話 代わりは

「……ン!リ……!」

「っ、ん?」

「リン!」

「っ!?」


 黒い自分との戦闘を終えたリンは、カグヤからロトスを受け取った場面に引き戻された。


「リン!どうしたの?急にボーッとし始めたと思ったら、涙を流し始めたわよ。」

「っ、セラ、オウロ、アンジェ、カグヤ。……そうか、俺は戻ってきたんだな。」

「戻ってきたって、まさか兄さん、また記憶が!」

「ああ、俺の中で決着をつけられた。そのおかげで、記憶を全て取り戻すことができた、たぶん感情も。っ。」


 目眩がし、ふらつくリン。

 咄嗟に反応したのは、


「大丈夫?」

「ああ、ありがとう、セラ。」


 セラはギガスの呪いが発動しないよう熱を体から放出するイメージでリンを支える。


「悪い、記憶が戻った影響か、少しふらつくみたいだ。カグヤ、みんなの武器ができるまで休憩してるな。」

「任せときな!なら、アネモネに行ってレムに落ち着くものでも作ってもらってきな!」

「ああ、そうする。みんな、後でアネモネに来てくれ。」

「了解、リン君は休んでいてくれ。」


 リンは真っ直ぐアネモネへと向かう。


(どういうことだ、俺は確かに黒い自分との戦いを終えた。これまでなら傷が生まれてたはずだし、その場に倒れ込んでいた。これも、黒い俺のおかげなのか?)


 リンは頭の中にいろんな憶測を浮かべながら、


「いらっしゃいませ!あ、リンさん!武器作成は終わったんですか?」

「ああ、俺のを最初に作ってくれたんだ。そしたら、少し目眩がしたから先に帰ってきた。」

「それだけお疲れってことですね、今ハーブティーを入れますから好きな所に座っててください!」

「ありがとう、レム。」


 リンはテーブル席に腰をかけ、レムがハーブティーを用意してくれるのを待つ。


(俺が無傷で生きてるのは、たぶん黒い俺のおかげだよな。最後まで面倒かけてしまったな。)

「お待たせしました、最近色々試してるんですけど疲労回復と落ち着きたいときの1杯におすすめなこちらをどうぞ!」

「ありがとう。」


 リンは目の前に置かれた薄緑色のハーブティーを飲む。


 優しい口当たりと、内側から癒してくれるような甘さとさっぱりさを感じる香りが包み込む。


「うん、美味しい。さすがレムだな。」

「えへへ、ありがとうございます!」


 そのままレムもハーブティーを用意し、リンと隣同士で座る。


「レムも休憩か?」

「はい!今日はキッチンのメンテナンスの予定で、夕方でお店を閉めるんです!」

「そうなのか?悪いな、駆け込みみたいな形になって。」

「いえいえ!アネモネに来てくれるお客様はいつでも歓迎です!特に、リンさん達となれば!……ところで、リンさんは今の状況をどう思いますか?」

「えふっ!え?」


 唐突なレムの問いかけに、リンはむせてしまう。


(レム、この一瞬で俺の迷いに気がついたのか?いや、それはそうと、レムもイリオスの人間だ。最悪、レムとも武器を交えることに─。)

 リンが多くの可能性を思考していると、


「今の状況、カップルでお茶してるみたいですよね!」

「……え?」

「だってそうじゃないですか!広々とした店内に二人だけでハーブティーを、隣同士に座って嗜む。まるで貴族カップルの風景じゃないですか!」

「あ、ああ、そうかも、な?」

「なんで疑問形なんですか!看板娘のレムちゃんと一緒に過ごしてる自覚をもっと持つべきだと思いますよ!」

「そ、そうだな。考え事ばかりしてて忘れてたよ。」

「看板娘が隣にいるということを差し置いて考え事!これはあとでお説教ですね!」

「理不尽だろ!」


 すっとレムの顔を見つめたリンは、レムの優しい表情に見つめ返されていた。


「やっとこっち向いてくれましたね、リンさん。さっきからずっと、孤独に苛まれていたのでお顔が見れて安心です。」

「レム……悪い、気を遣わせちゃったな。」

「謝る必要なんてありません、リンさんはこれまで多すぎることをその身で経験して、乗り越えて、また壁に阻まれているんだと思います。だったら、私達を頼らないと支援課ダーヴのリーダー失格ですよ?」

「リーダー、か。……レム、支援課ダーヴのリーダーの代わ─。」

「いませんよ。」


 リンが話し終える前に、レムは真剣な表情で答える。


「リンさんは、支援課ダーヴの象徴といえる人です。誰よりも仲間のことを、周りのことを考えて一直線で行動する。それがたまに危ういこともありますが、セラ様やアンジェさん、オウロさんがいることでバランスがとられてる。」

「レム……。」

「たぶん、今リンさんは私達では到底想像もできないような壁に道を拒まれているんだと思います。だったら、頼ってください、私でもいい、支援課ダーヴでもいい、あなたが信頼してる人を。リンさんの周りの人は、逞しい人ばかりですよ?」

「……そうだな、1人の力なんて小さいってこと、忘れてたかもな。ありがとう、レム。このあとみんなも来るんだ、一緒に話を聞いてもらえるか?」

「分かりました!じゃあ、皆さんが来るまでカップルっぽいことして遊びましょ!まずはお菓子をあーんしてあげて─。」

「待て待て、これからみんな来るって言ったぞ?」


 リンは1人で背負いかけていた責任、課題をレムによって考え直すことができた。


 そして、カグヤが武器を作り終え、日が落ちた頃、アネモネに皆が揃った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る