第137話 対話の先

「リン!」

「兄さん!」


 リンは目を開き、セラとアンジェの心配そうに見つめる顔が映る。


「……ただいま、セラ、アンジェ。悪い、また心配をかけたよな、どれくらい倒れてたんだ?」

「兄さんが気を失ってから、3分も経たないくらいです。それより、今回の傷は前回よりも酷いですよ!何が起きたんですか!!」

「ああ、正直かなり危険だった。俺が負けてた可能性も十分にあった戦いだった、っ。」


 リンの体は、セラとアンジェが治療していたが、それが間に合わないほどに傷を受け、体から血が滴り落ちた。


「話は医務室で聞くわ、歩ける?」

「ああ、何とかな。」


 リンは立ちあがろうとするが、痛みに表情を強張らせふらつく。


 その瞬間を、セラは見逃さず両腕に熱を生み出すイメージでリンを支える。


「こらっ、嘘をつかない。あなたの心は嘘をつけても、体は正直に反応してるじゃない。私が運んでいきたいところだけど、凍り付けにするわけにいかない、アンジェ、お願いできるかしら?」

「……はい。」

「悪い、2人とも。」


 リンはアンジェに肩を借り、医務室まで向かった。


 その道中、リンは思い出した感情について話し、そのまま黒いリンとの会話を共有し始める。


「なるほどね、次にリンが取り戻した感情は、興味。確かに、直近で多くのことが起こりすぎた、頭を回転させ続けたおかげで取り戻せた感情みたいね。」

「ああ。これで、あと1つになった、俺の感情も、記憶も取り戻すのも。全てが戻れば、もっとみんなの力になれると思う、最後までよろしくな。」

「……兄さん、記憶の方はどうですか?何が思い出せましたか?」

「……ワノモトに、何か重大なことが起きてるってことはわかった。イリオスでいう、アテネみたいなこと、のような。」


 歯切れが悪いリンに対し、セラは問いかける。


「ワノモトに何が起きたの?あなたがイリオスに呼び出された事とかわかった事はある?」

「光だ、セラが教えてくれた眩しい光が俺を覆ってきた。あとは、ムクナ師範がその光について何か知ってそうな気がする、それくらいだな、今回思い出せたのは。」

「ワノモトに光を知ってそうな人がいる……そう、少しでも思い出せたならよかったわね。」


 セラは何かに気が付いたようだが、2人に話さずリンを医務室に送り届ける。



 椅子に腰掛け、セラとアンジェが治療を再開。


 深い傷はないが、数多い傷を治療し出血を止める。


 10分後、リンは包帯や絆創膏で身体中処置されることになっていた。


「ありがとう、セラ、アンジェ。」

「気にしないで、なにか食べれるかしら?レムに話して持ってくるわ。」

「ああ、ありがとう。」

「……セラさん、そちらはお任せしてもよろしいですか?」

「ええ、アンジェはリンが逃げ出さないか見張っておいて。」

「そんなことしねえよ。」


 アンジェはリンの近くに椅子を寄せ、座る。


「あと1つで、俺はワノモトのことも、アンジェのことも、ムクナ師範のことも、いろんなことを思い出せる。ラストスパート、気張らないとな。」

「……兄さん、無理してませんか?」

「え?そんな、俺は無理なんて─。」

「だったら、何でそんな険しい顔をしてるんですか。傷を治療されてる時より、怖い顔をしてます。……何か隠してますよね?」

「……いや、考えすぎだよ、アンジェ─。」


 ガシッと、リンをアンジェが抱きしめる。

 咄嗟のことに、リンはただただ混乱していた。


「ア、アンジェ!?いきなりどうした─。」

「それはこっちのセリフですよ!!何で、何で1人で背負うんですか!さっき、兄さん言いましたよね、最後まで頼むって。」

「あ、ああ。俺には、みんながいないとこれから生きていけない、そう思ったから─。」

「だったら、兄さんの背負うものも分けてください!勝手に1人で背負って、これ以上苦しまないで!……それとも、うちじゃ頼りになりませんか。」

「そんなこと!」


 リンはアンジェの顔を見る。



 彼女の目には、大粒の涙が。


「兄さん、うちはもう兄さんから離れるつもりはありません、だからどんなことでもいい、うちにも分けてください。」

「……でも、これは俺の問題で─。」

「違います、うちらの問題です。兄さんが苦しい時、苦しんでるのは兄さんだけだって思ってます?そんなの違う、うちだって苦しいんです、大切な兄さんが苦しんでるのを見るのは。」

「アンジェ……。」

んです、兄さん。うちに、もっと甘えてください、必ず力になりますから。」


 図星であったリンは、アンジェの言葉に言い返せなかった。

 リンは心のどこかで、自分の記憶と感情を取り戻した時、1人で自分が自分でなくなるかもしれない事態を収束させようとしていた。


 それを、アンジェは見抜いていたのだ。


「ありがとう、アンジェ。間違えてた、頼りにされたいと思ってたけど、俺も頼りにして良いんだよな。アンジェ、ごめん、こんなバカな兄を、支えてくれるか?」

「もちろんです、うちは兄さんを、愛してますから。」

「嬉しいよ、ありがとう。……家族として、でいいんだよな?」

「さぁ、どうでしょうね〜。」

「いや、そこ誤魔化すなよ!」


 リンの心が軽くなったと同時に、セラとレム、オウロが合流した。

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