第82話 囚われたリン

 リンの見た目は普段と変わらない。



 だが、彼が放つ負のオーラが目にみえる程に濃くなり、全身を黒い何かが覆っているようだ。

 彼の目はドス黒い赤色に変わり、いつもの優しい雰囲気は1ミリもない。


 その姿を見たオウロは、


(今回彼が思い出したのは、多分。そして、今までのリンくんとは真逆だ、これまで記憶や感情を取り戻した時はあまりの衝撃に気を失っていた。でも、今回思い出したは違う、その感情に呑まれてしまっている。どうにか止めないと、シオンがもたない。)


 リンに向け振り下ろされる大男の大剣、その剣を、


「っ!?お前、正気か─。」

「うぁぁぁ!!」


 誰が予想したか、リンは素手一本で大剣を掴み、手から血を流しながら受け止める。


 大剣がびくともしない、受け止めた0.5秒後には足蹴りが大男の腹に入り5m吹き飛ばされ岩の壁にぶつけられる。


 岩にヒビが入り、大男は口から血を垂らす。


「おいおいっ、こいつ何者だ。あの雇われ戦士もそうだが、変な奴が多いな─。」

「死ね。」


 リンは小さく溢し、黒剣を構え顔面に振り下ろす。

 走り始めに一歩蹴った地面は、数センチ凹んでおりリンの力の暴走が見て取れる。


「リンくん!落ち着いてくれ!殺意に呑み込まれてはダメだ!」

「あぁ!!」


 オウロの声は全く届かず、大男に振り下ろされた黒剣は大剣と火花を散らす。


 リンの一撃は、確実に大男の力を上回っており受け止めた男の足元にヒビが入る。


「うぐっ、馬鹿力なんてものじゃないな、化け物が!」

「黙れ。」


 数撃を1秒足らずで打ち込み、捌ききれなかった大男の右肩と左腕に切り傷が生まれる。


「ちっ、予定と違いすぎる、撤退したいが逃げ切れる雰囲気じゃないよな。」

「がぁ!!」


 リンは黒剣を納め、抜くと共に大きな斬撃を放つ。

 そのスピードはこれまでの斬撃よりも明らかに上がっており、避けきれないと判断した大男は、


「ちっ、奥の手を使わせられるなんてな。」


 ポケットから緑色の錠剤を取り出し、飲み込む。




 すると、筋肉が膨張し大男がさらに大きくなる。


 その様子をオウロはしっかり目に焼き付けていた。


(何を飲んだ?体を無理やり増強させる薬?そんなもの存在するなんて初耳だ、あいつは捕まえて話を聞かないと余計な被害が生まれる気がする。捕まえるには、まず……。)


 大男は斬撃を弾き、前を向く。

 すると、目の前まで迫ったリンの黒剣と大剣が三度火花を散らす。


 大男も、奥の手を使った効果かリンの動きに対処できているように見える。


「お前は最優先で排除しなくちゃいけねえ、ここで死ね。」

「黙れ。」


 リンは黒剣から手を離し、掌底突きを腹に入れる。

 しかし、衝撃を受けた大男はびくともしない。


「ふんっ、さっきは油断したがお前の力の限界は理解している、早く死ねよ!」


 大男は大剣を振り下ろし、リンの頭上に迫る。


 その動きを予想していたのか、体を捻って避け飛び上がり回転蹴りを顔に入れる。


 それでも、大男は動かない。

 リンは黒剣を持ち、さらに動こうとするが大男の拳がリンの腹に入り、木にぶつかる。


「リンくん!」


 オウロは近寄ろうとするが、リンの気配がさらに強くなったことを感じ、一歩進んでその場に止まる。


(リンくん、痛みを全く気にしていない、これじゃあ人の戦い方じゃない、獣の狩と同じだ。)

「ぁ、ああ!」


 黒剣を構え、不規則な攻撃で再度大男を襲う。

 体にヒットしているが傷は生まれない。


「ふんっ、無駄だとまだわからないか、バカな男─。」

「吹き飛べ。」


 リンは体を強張らせるほどのプレッシャーを放ち、大男は怯む。


 その隙に黒剣の突きを腹に放つ。


「だから、何度無駄と言えば─。」

「うるせぇ。」


 鋭い突きが放たれ、大男に突き刺さる前に何かに阻まれる。

 飲んだ薬の効果だろう、シールドのように攻撃を受け止める。




 しかし、


「うぁぁ!!」

「っ!?こいつ、力技で─。」


 バゴンッ!という大きな音を響かせ、岩にめり込む。


 大男の限界が来たのだろうか、先程までの覇気がなくなり動きが鈍くなる。


「うはっ、くそっ、薬の力でも抑えきれないのか、もっと投与すればまだ─。」

「死ね。」


 大男が考える前に、リンの黒剣が顔面に迫り大男は体に力が入らず防ぐことはできない。


「ちっ、殺される─。」


 ガギーンッ!と大きな金属音が響き渡る。


 黒剣はしっかりと伸ばされており、大男の顔を突き刺せた距離。



 そこに介入したのは、



「リンくん、君はこの人を殺してはいけない。いろんな情報を持っている人を、君の心が傷つく可能性があることを僕は見過ごせない。君は、誰かの命を奪えば、根底にある優しさが反応して君は自分を一生責める。」

「……じゃま、だ、死ね。」

「僕が誰かもわかっていないみたいだね、なら僕が相手するよ。君を救い出す、僕の全力をかけて。」


 オウロは金属装備の拳でリンの黒剣を受け止め、この瞬間でリンが大男を殺すことを阻止した。


 続けて、オウロとリンが戦うことになるだろう、果たしてオウロにリンを止めることはできるのか?

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