第57話 聖女の話



 古代遺跡ダンジョン前の女神の泉で、荷物をおろして、ひと休み。残念ながら、食料はほとんど子猫たちと兄貴に食われてたけど、まだ少しだけ残ってた。ナッツとか、堅焼きパンとか、レーズンとかの保存食だ。そいつをボリボリかじりながら、聖女の話を聞く。


「わたしたち、キャッティー王家と、マン族のシンシナモン王家は古来より深いつながりがありましたにゃ」


 マン族には王家が三つある。そのうちの一つがシンシナモン王家だ。マンエンディをふくむ西方に領土を持ってる。ちなみに三つの王家はもとは一つで、今でも親戚だ。シンシナモン王家は初代の王さまが無類の猫好きだったって話だな。


「それで、このたび、正式に聖女選定されましたので、お祝いに王都へ招待されましたにゃ。じつは、われにゃ猫族は聖女になると身につけることがゆるされる先祖からの宝玉がありますにゃ。それが、この『竜の右目』ですにゃん」


 と、丸っこい猫の手で示してくれたのが、派手派手な首飾りだ。


「ほらにゃ。姉上さまの首飾りにそっくりですにゃ?」


 白猫僧侶のニャルンちゃんがいうだけのことはある。たしかに、今、あたしが首にかけてるアミュレットにデザインがよく似てる。


 それに、まんなかにある目立つ大きな宝石は同じ種類だと、ひとめでわかる。ダイアモンドとかルビーとか、宝石はたくさんあるけど、この石はそんなんじゃないんだよね。そのへんでは見ないような、めずらしいやつだ。


 あれ? この白銀に半透明で、水色や濃いブルー、グリーン、それに金粉、銀粉がまざったような不思議なキラキラ輝く感じは、あの人の瞳に似てるなぁ。あたしの守護精霊、ユニクス・ドラゴ・サフィエンラーダの瞳に。


「このまんなかの宝石は魔晶石の一種といわれてますにゃ。わが国に伝わる大事な家宝ですにゃ。この竜の右目とマン族の持つ竜の涙、それに、ハーピー族が持ってるという竜の左目は三対のアミュレットだといわれてますにゃ。三つがそろうと、とんでもない奇跡が起こるという伝説ですにゃ」

「へぇ。知らなかった」


 えーと、その世界に三つしかない秘宝の一つが、なんで、あたしの手に? てか、タヌ王が持ってたんだよなぁ。


「シンシナモンの王さまは、親交の証にたがいの秘宝を見せあいましょうといいましたにゃ。それで、わたしがアミュレットをつけて、たずねていきましたにゃ」


 むっ。三つそろうと奇跡を起こす秘宝を二つ集めようって? それだけで陰謀の香りがする。思ったとおり、


「最初はとても丁寧に歓迎してくださったのですにゃ。でも、夜になってお城の冒険をしてたにゃら」

「お城の冒険?」

「見ず知らずのお城ですにゃよ? 楽しそうですにゃん? 夜な夜な歩いてみたいですにゃん?」

「……」


 ああ、そうだったね。猫族は夜行性だから。夜遊び大好きだったね。


「侍女のスザンニャとあちこち歩いてたんですにゃ。そしたら、急に変な話し声が聞こえてきましたにゃ」

「ふうん。どんな?」

「男の人の声でしたにゃ。二人か三人だと思いますにゃ。『殺してしまえばいい』って誰かがいったので、ビックリしましたにゃ」


 つまり、こんな感じの会話だったらしい。


「うまいことやったな。これで三つのうち、二つの秘宝がそろったぞ。残りは左目だな」

「左目のほうは金でなんとかなりそうです。むこうの大臣が金貨一千枚で偽物とすりかえてくれると……」

「ふふふ。これで〇〇がホニャララで……」

「わたくしめの功績をお忘れなく。金貨一千枚を集めるのは苦労いたしました」

「わかっておるわ。そういうも、うまくやったではないか。前任者を追いおとし、自身がマスターになりかわるとは」

「ふん。アイツは私を嫌っておりましたからな。いつまでも上にいられては困るのですよ」

「しかし、まだ生かしておるのだろう?」

「何せ、強い術師ですから。封じるのがやっとで」

「さっさと殺してしまえばよいのだ。万一にもヤツが逃亡すれば、こちらの策が無に帰してしまうではないか」

「問題ありません。いかにマルテュスといえど、あの封印は解けますまいて」


 はあっ、もう、ここまで聞いだけで、何回ツッコミ入たことか!


「待ってよ! マルテュス? それって、ギルバートさんだよね? 封印? それに前任者ってことは、まさか、まさか……」


 認めたくない。認めたくないけど、認めざるを得ない。


 前ギルドマスターのギルバートさんのあとについたのは、ホバークさんだ。ホバークさんがなんかの陰謀に加担してる?

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