第56話 聖女は助けたけど



 さてさて、じつは猫族の王子さまと王女さまだったというニャルムとニャルア=ニャリー姉弟だけどさ。


「で、どうすんの? 姉上さまは見つかったし、ニャルムたちはもう国に帰んの?」


 だとすると、ここまで来た道をもう一回ひきかえしていくしかないんだよなぁ。出口の真ん前まで来てんのに。できれば、外に出て、マンエンディの街でひと休みしてからにしてほしい。


 すると、猫族聖女さまが憂い顔を見せた。


「じつは……侍女のスザンニャが、わたしのふりをして王都に残っているのですにゃ。助けに行かにゃいと、きっと殺されてしまいますにゃ」


 あたしは兄貴やリゲルたちと顔を見あわせた。

 ニャルアの発言はどうにも変だ。そもそも、マン族と猫族は友好関係を結んでる。だからこその王女さまを迎えて歓迎してたんだろうに、それが急に殺すとか物騒なことになるなんて、よっぽどじゃないか?


「ねぇ、聖女さま。いったい、王都で何があったんですか? 遊びに行ったんだから、最初はマン族の王さまに呼ばれていったんでしょ?」

「それは……」



 ——キエエエエエエエエエーッ!



 ニャルアはつかのま迷ってた。けど、しょせん、黙ってはいられないみたいだった。


「みなさんは弟を助けて、ここまで来てくださいました。善良な人だとお見受けしましたにゃ。そんなあなたがたに助けていただきたいのですにゃ」

「えっと……」



 ——ウギャーッッッ!



 それはもちろん、こんな可愛い猫ちゃんの頼みだ。聞いてあげたい。けど、国交がどうとか、めんどうな話はヤダなぁ。それじゃなくてもギルドに借金あんのに。


 いや、待てよ。借金か。借金の足しになんなら、働かないでもないな? 聖女と王子さまを助けて、ぶじに国へつれもどした勇者——謝礼の匂いがする。


「わかりました! お受けしましょう! けど、ガイドは仕事ですので、それなりの報酬はいただきます。よろしいですか?」

「父上や母上に相談すれば、謝礼はいくらでも払ってくれますにゃ」



 ——ギャギャギャ……。



 ふふふ。じゃあ、いっちょ、がんばるか。


「でも、ニャルムたちはつれてけないなぁ。王宮に忍びこむわけでしょ? 兵隊がいっぱいいるだろうし」

「ぼくらは足手まといですにゃん?」



 ——アギャああああああーッ!



 うるうるした目で見るなよ。胸が痛いって。


「それはまあ、あとでゆっくり話しあいましょう。それより、さっきから、まわりがウルサイんだけど! 兄貴!」

「だって、アニス。モンスターが襲ってくるから、お兄ちゃん、退治してあげてるよ?」


 そうだった。ここ、ダンジョンだった。


「しょうがない。とにかく、いったん、ダンジョンを出ましょう。そのあと、ゆっくりニャルアさまのお話を聞きましょうか」


 というわけで、出口へ急ぐ。マンエンディ側のほうが断然近いんで、ここはいったん、そっちへむかった。


 出口の扉はふつうに手で押したらひらいた。なかからは鍵がいらない仕組み。


 外に出て、あたしは思わず首をかしげる。なんか、見たことある場所だなぁ。ありがたいことに女神の泉があるよ。冷たい清水を飲めば、疲れがふっとんで——って!


「ここ、アラーラ村の外れにある古代遺跡ダンジョンじゃねぇか!」


 タヌキン狩りのとき遠征したアラーラ村。あのとき、タヌ王をつかまえた遺跡の前だ。鍵がかかってて、人跡秘湯の湯ってやつだって聞いたのに。


 リゲルがボソッと指摘する。


「アニスさん。人跡未踏じんせきみとうね」

「もう! おまえは心読むなよ。そういうのいいから!」


 このダンジョンって、マン族が誰も入ったことないって聞いてたのに、ビースト国とつながってたのか。そんで、ビースト側からは自由に行き来ができた、と。いや、自由にっていっても、鍵がないとダメだから、実質、王族じゃないと入れないわけだけど。


「ここの鍵は、われにゃ猫族側と、マン族側に各一本ずつありますにゃ」と、猫の聖女さま。「じつは、わたしはマン族側の鍵をぬす……借りて、なかへ入ったのですにゃ。でも、大きなドラゴンに出会って、あわてて逃げだしたのですにゃ。なんとかふりきったものの、力を使いはたして倒れてしまいましたにゃ」


 ……姉弟そろって手クセの悪い子猫ちゃんたちだな。でも、おかげで、あたしたちはこの特Aダンジョンに入れたわけだし、聖女さまにも出会った。結果オーライか。


「それじゃ、ここで休憩しながら聞きましょうか? ニャルアさま。王都で何があったんですか?」

「聞いてくださいませにゃ。じつは……」


 猫の聖女さまが語った話。これが、とんでもなかったんだよね。

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